昨年度までに終了した7月の調査に加え、4月および9月に調査を実施することでミズゴケの陽イオン交換能に関する季節変化を明らかにした。また、土壌水pHに対する共分散構造分析により、湿原pH環境へのミズゴケ陽イオン交換作用の影響力を評価した。 ミズゴケシュートの陽イオン交換サイト全体でみた交換能(CEC)の季節変化については、Fen・移行帯・Bogに分布するいずれの種においても明瞭なパターンは認められなかった。しかし、有効サイトとしての陽イオン交換能については、Fen・移行帯・Bogに分布する種間で水位環境と関連した異なる季節変化を示した。季節を通じて冠水しやすいFenに分布する種群では、有効サイトとしての交換能にほぼ季節変化はみられず、全体的に低い値で推移した。夏期に非冠水状態となる移行帯の種群では夏に高い交換能を示し、非冠水状態が常に維持されるBogの種では季節変化が比較的小さく高い交換能で推移する傾向にあった。これらの傾向は、冠水環境下でシュートの陽イオン交換サイトがミネラルイオン類で優占され、その結果として有効サイトが減少したために生じたと考えられた。 Fen・移行帯・Bogにおけるミズゴケの種組成・被度・シュート密度を反映させた陽イオン交換能(有効サイト)の年平均値は、それぞれ10.5、46.1、75.8meq/m2となった。土壌水pHに対する共分散構造分析では、酸性化要因(ミズゴケによる陽イオン交換作用)が22.0%、中性化要因(塩基性イオン供給)が38.7%、間接効果として水位環境が7.0%の強さで関与していることが示された。このことから、湿原のpH環境に影響する要素として、これまで議論の主流であった塩基性イオンによる中性化要因だけでなく、ミズゴケによる酸性化要因も無視できない強さで関与していることが示唆された。
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