研究課題/領域番号 |
21K06344
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
小林 知里 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 森林総研特別研究員 (70539519)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 植物加工 / 植食性昆虫 / 擬態 / マスカレード |
研究実績の概要 |
「創出枯れ葉擬態」という行動に着目し、コミスジおよびオオミドリシジミ幼虫の行動観察及び行動パターンの解析を行なった。コミスジは寄主植物の葉を切って枯らせてから緑の葉に吊るし、自身がその葉に紛れるという擬態を行う。結果では、若齢から終齢までの各成長段階で枯れ葉の利用様式が異なることがわかった。すなわち、1ー3齢では枯れ葉が幼虫の餌および隠れ家として機能しているが、4齢で餌に生葉も食べるようになり、終齢では枯れ葉は隠れ家のみの役割となり餌は生葉に切り替わることがわかった。一方、オオミドリシジミは植物加工を行う時期が終齢のある特定の時期に限定され、葉脈を傷つけて複数枚萎れされること、その中の2枚ほどだけが茶色く変色するということが分かった。萎れた葉は主に餌として利用されるが、茶色く変色した葉は最後まで食べられることはなく、蛹化のために枝から移動する前日の、静止時間が最も長い時期に隠れ家として利用されていた。このように、葉を切って枯れ葉あるいは萎れた葉を作り出すという幼虫の行動に対し、成長段階に応じてその行動によって生じた枯れ葉・萎れた葉の利用形態が変化していくことが見てきた。さらに、食性が生葉と枯れ葉というように成長に応じて切り替わることから、「創出枯れ葉擬態」の適応的意義と進化史について、単にカモフラージュとしての意義だけではなく、食性との関連で考えていく必要が見えてきている。オオミドリシジミに関しては、枯れ葉が常には隠れ家として機能しているわけではないという予想に反する結果が得られたことから、擬態個体と擬態モデルとの距離あるいはモデルの個数・配置などが、擬態個体の発見にどのように影響するのかについて、AIによる生物識別アプリを用いた解析も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物加工による枯れ葉擬態を行うチョウ目幼虫2種について、幼虫の植物加工行動の実態の詳細を明らかにすることができた。コミスジについては、断片的な個体追跡ながらも1齢から5齢までのすべての齢での行動観察を行うことができ、幼虫期全体にわたる行動実態の把握をすることができた。また、2種の寄主植物上での行動を見ることができ、寄主植物による行動の違いに関する知見も得られた。オオミドリシジミについては終齢幼虫のみの観察になったが、1齢からの行動観察が可能となるよう、次年度に向けて卵を確保してある。まずは研究の下地となる行動の実態把握ができたことで、行動の意義を探る実験を行う土台ができた。また、擬態効果についての画像解析を行う下準備として、野外での幼虫画像の蓄積と画像処理、AIによる判定の試行まで進められている。このような状況により、おおむね順調に進展していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
野外あるいは室内での幼虫の行動観察を引き続き行い、行動実態の解明もデータを増やして充実させつつ、操作実験や飼育実験を開始する。また、進化史の解明に向けて、必要に応じて近縁種も含めたDNAデータ用のサンプルを野外にて収集する。擬態効果の検証については、加工処理した画像を使用し、AIによる生物判定プログラムを用いた画像解析を本格的に進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた顕微鏡外付けライトが、予定金額よりも安価であったために差額が生じた。翌年度分への上乗せとして、論文の英文校閲費の充実などに充当したい。
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