研究課題/領域番号 |
21K06349
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平舘 俊太郎 九州大学, 農学研究院, 教授 (60354099)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 有機態リン / 有機態リンの無機化 / 核磁気共鳴 / オルトリン酸生成速度 / ホスファターゼ活性 / myo-イノシトール6リン酸 / フィチン酸 / 非アロフェン質黒ボク土 |
研究実績の概要 |
本研究は、土壌中の有機態リンについて、(1)その種類(化学構造)、(2)存在量、(3)無機化速度(オルトリン酸生成速度)を明らかにし、土壌中におけるリンの化学的実態および機能とともに、人為的管理の影響を明らかにすることを目的としている。令和3年度までの研究により、定法として現在一般的に採用されている有機態リンの無機化速度の評価法(以下、定法)では、グルコース6リン酸の無機化速度を評価できるものの、土壌中のリン循環において重要と考えられるフィチン酸については、必ずしもその無機化速度を適正に評価できないことが明らかになっている。令和4年度は、土壌中での有機態リンの無機化速度を規定している要因を明らかにするために、5種類の土壌に対して滅菌処理あるいは有機物分解処理を施し、有機態リンの無機化速度を無処理土壌と比較した。その結果、定法では土壌中に存在している成分のホスファターゼ活性を評価しているが、これが土壌中における有機態リンの無機化速度に寄与する割合は非常に低いこと、実際の土壌では土壌微生物が活動することにより有機態リンが無機化される反応の寄与が非常に大きいことが明らかになった。このことから、土壌中での有機態リンの無機化速度を評価するためには、土壌中に存在する有機態リン化合物の種類や量を把握し、その有機態リン化合物について、土壌微生物活性を考慮に入れて調査する必要があることが明らかになった。 また、土壌中における有機態リンの種類と存在量を、核磁気共鳴スペクトルにより解析する研究に着手した。その結果、大分県竹田市の久住高原にて採取した自然の森林植生下の非アロフェン質黒ボク土表層土壌(0~5 cm深)では、含まれる全リンの61%がオルトリン酸モノエステルであり、そこにはmyo-イノシトール6リン酸(フィチン酸)が主要な成分として含まれることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
日本の代表的な土壌5種類(沖積土,黒ボク土,富塩基土,褐色森林土2種類)を用いて、土壌中における有機態リンの無機化速度(オルトリン酸生成速度)を、代表的な土壌中のリン化合物(グルコース6リン酸、ATP、レシチン、フィチン酸)およびモデルリン化合物(パラニトロフェノール、bis-パラニトロフェノール)について定量的な評価を終えている。加えて、定法の問題点を明らかにするとともに、本研究を推進するうえで必要な情報が明確になった。また、その必要な情報である土壌中の有機態リン化合物の種類(化学構造)および存在量については、すでにいくつかの土壌についてデータが得られている。このことから、本研究課題は計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度以降は、いくつかの生態系において土壌中に含まれる有機態リンの種類(化学構造)と存在量を調べ、土壌中におけるリンの化学的実態および機能を明らかにするとともに、人為的管理の影響を明らかにする。また、有機態リンの無機化速度は、土壌による有機態リン化合物の吸着の影響が大きいと考えられるため、この点を調査したいと考えている。本研究は、非常に順調に進捗しており、また新たな研究展開も視野に入ってきたことから、可能であれば科研費「研究計画最終年度前年度応募」に挑戦したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延の影響を受け、土壌採取のために計画していた旅行、および学会発表の一部が実施できなかった。これらについては,令和5年度以降、新型コロナウイルス蔓延の状況を注視しながら実施していきたい。また,より多くの土壌試料を対象に、含まれる有機態リン化合物の種類(化学構造)と存在量を分析する。加えて,土壌中における有機態リンの無機化速度に大きな影響を及ぼしていると考えられる土壌吸着についてより詳細に調べる計画であり、そのための機器分析利用料、実験用ガス、試薬、人件費などの経費として執行する計画である。
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