研究課題/領域番号 |
21K06352
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
高須賀 圭三 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任助教 (00726028)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | クモ / クモヒメバチ / 人為移植法 / 行動操作 / 寄主置換 |
研究実績の概要 |
寄主生物に寄生する外部寄生蜂の幼虫を近縁の別種の寄主に移植し、異なる寄主に寄主操作を行うことができるのか、できた場合にどのような行動が引き起こされるのかを、クモの造網行動操作をするクモヒメバチ類を使って検証する。 今年度は、比較的容易に採集できるマダラコブクモヒメバチ(寄主:オオヒメグモ)の幼虫をゴミグモに移植する実験を行ったが、幼虫がクモを殺す段階に至るまでに死亡するという結果となった。例数が少なかったことも要因としてあるが、寄主クモの種が遠縁になることによる血リンパ成分や免疫システム、体表組織の硬さなどの違いや、単純に体サイズのミスマッチ(ゴミグモの方がやや大きい)などの要因も考えられる。体表組織の硬さや体サイズについてはより小型で体表が柔らかいギンメッキゴミグモを用いることで解決しうるので、次年度の材料としたい。 移植実験の例数が少なかった理由は、マダラコブクモヒメバチによるオオヒメグモの網操作が未発表であったため、移植実験の発表の際に引用できるよう論文化に向けて今年度に操作様式の定量的データを収集していたからである。延べ29個体のマダラコブクモヒメバチ幼虫とその寄主であるオオヒメグモを採集し、同じ規格に揃えた網台に造網させ、網を毎日撮影することで、ハチがクモを殺した日から遡って4日前から網の変化を追った。オオヒメグモの網を構成する捕虫用釣り糸と住居用迷網部の本数と体積を写真から定量化したところ、いずれもクモを殺した日の数値がクモを殺す前日以前と比べ有意に減少していたことがわかり、操作が漸次的なものではなくクモを殺す当日に一気に生じるものであることがわかった。また、操作によって作らされる糸の起源を探るため、プロテオーム解析を実施する予定であり、通常網の迷網部、釣り糸、操作網の迷網部、強化された釣り糸の4種の糸を重量検知できる水準で各4反復集めることに成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
移植実験自体は順調に進展していないが、具体的な課題も見つかっており、今後の進展にも期待できる。 一方、マダラコブクモヒメバチによる網操作様式の定量化については大きな進展を得られており、今後1-2年以内の論文化が現実的なレベルまで来ている。上記の被寄生網形態の変化やプロテオーム解析の他、操作網の適応的意義検証として徘徊性生物による衝突対策仮説を立て、操作網及びクモ不在の通常網のそれぞれ底面を透明の柵で囲いワラジムシを入れて網の破壊程度を調べている。途中段階ではあるが、通常の釣り糸は非常に脆弱であるためワラジムシの衝突で次々に壊される一方、操作網の釣り糸は強化されている上、本数が少ないため衝突される頻度が少なく壊されにくいという傾向が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、マダラコブクモヒメバチとゴミグモは移植先としての相性が悪い可能性が浮上しているため、移植先寄主をギンメッキゴミグモに変えて試す。それでも相性が悪い場合は、コガネグモ科ではなく、オオヒメグモと同じヒメグモ科の別種などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
移植実験が想定より進展しなかったため分子実験等まで展開することができなかったため、関連する費用の支出がなく、次年度に繰り越す額が生じた。 次年度では移植実験や分子実験に加えて、幼虫の解剖から生体抽出液を分離し、健全なクモに打ち込むことも計画しており、繰越分をその関連費用に充てる。また、論文の出版費用として支出する可能性もある。
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