研究実績の概要 |
Alpha-actinin-3はACTN3遺伝子によってコードされ,アスリートを中心にスプリントやパワー系運動能力と関連していると考えられてきた.しかしながら,一般の人々におけるスプリント/パワー系運動能力は体力テストにおける50m走や立ち幅跳びにおいてRアレル群(RR型とRX型)とXX型(欠損型)との間に有意差を認めたが,その効果量(effect size)は小さかった(Cohen's d < 0.5; Matsuiら, 2023).また,ACTN3遺伝子の多型がスプリントや持久性運動といった運動の嗜好(preference)とマッチする割合は高くはないことが既に報告されていることからも(Kawamuraら, 2021),一般人におけるACTN3遺伝子の発現による運動能力への影響がアスリートにおける場合と異なるのかどうかをエピジェネティックの観点から明らかにする必要があると考えた. 本年度は,一般男子学生においてACTN3のR577X多型がホモRR型の被験者を対象とし,バイサルファイト処理したゲノムDNAを用いACTN3遺伝子の上流のプロモーター領域についてメチル化解析した.その結果,被験者の中でシトシン塩基のメチル化が検出され,且つ, CpGにメチル化と非CpGの両方においてメチル化が観察された.すなわち,一般人のスプリント/パワー系運動能力はエピジェネティクスの影響が大きい可能性が示唆された(採択済[印刷中]). 一方,コホート研究によってRR型の低い柔軟性が知られるところ,本年度,多型間で同等同質のPNFストレッチングを可能とする機器を開発した上で(Azumaら, 2023), PNFストレッチングによって生じる筋腱複合体のメカニカルな変化はACTN3遺伝子を発現する一般人の柔軟性に対して不利益を与えず,そのトレーニング効果も期待できることを明らかにした(投稿中).
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