研究課題/領域番号 |
21K06369
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
市之瀬 敏晴 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (20774748)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 神経活動 / タンパク質翻訳 / ショウジョウバエ / リボソームプロファイリング |
研究実績の概要 |
インパクトのある記憶情報は、我々の脳に生涯にわたって刻まれる。1963年、Flexnerらは、タンパク質翻訳阻害剤をマウスの海馬領域に注射することで、迷路課題における長期記憶の形成が阻害されることを報告した。その後の研究で、学習後のタンパク質合成はシナプスの可塑的変化の固定化に重要であること、その重要性は哺乳類だけでなく、鳥類、魚類、軟体動物、昆虫など様々な種で保存されることが明らかとなった。このことから、神経活動依存的な特定タンパク質分子の新規合成が記憶の長期化に重要であるとは言えるが、肝心の分子メカニズムに関してはほとんど明らかにされていない。 これまでに神経活動依存的に転写活性が変化する遺伝子の同定や、CREBなどの転写因子はさかんに解析されてきた。しかし、転写制御は記憶の固定化の中でも最も後期のプロセスであり、既存のmRNAからの新規タンパク質翻訳を必要とする記憶の固定化初期とは区別されるべきである。そこで本研究では、神経活動依存的に翻訳されるタンパク質を網羅的に同定することを目的とした。この目的のため、生きた動物の脳の神経細胞特異的にリボソームプロファイリングを行う技術基盤を開発した。さらに、チャネルロドプシンを用いた光依存的な神経活動の前後でタンパク質翻訳をゲノムワイドに解析することで、200種類程度の神経活動依存的に翻訳活性が変化する遺伝子を同定することに成功した。この成果は、タンパク質翻訳を基盤とする神経科学を切り拓くものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
活動依存的に翻訳されるタンパク質の網羅的な同定に成功した。また、smFISH法によって標的となるmRNAの細胞内動態を可視化したところ、神経活動によって細胞内局在が変化することが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの発見をふまえ、神経活動依存的なmRNA動態の分子メカニズムに迫りたい。また、活動依存的に翻訳されるタンパク質が記憶の固定化に果たす役割について、遺伝学的なloss-of-functionなどを駆使して解明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経活動依存的なタンパク質翻訳の全体像を明らかにすることには成功したが、mRNAの動態を司る分子メカニズムや、その行動学的な意義の解明には至っていない。次年度使用額を用いて、このようなクエスチョンの解明を行いたい。
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