免疫受容体を介した神経幹細胞の運命制御機構を解析するために、in vivo で神経幹細胞の遺伝子発現を操作する必要がある。脳の発生過程を解析するために子宮内電気穿孔法が広く用いられている。プラスミドベクターによる遺伝子導入では、タンパク質の発現までに6時間以上必要とし、また長期にわたりタンパク質合成が続く。 今回、神経幹細胞の遺伝子発現を効率的に操作するためにmRNAを用いた子宮内電気穿孔法を開発した。合成mRNAはCOVID-19に対するワクチンとして世界的に広く使用されるようになった。しかし、神経幹細胞へのmRNA導入後のタンパク質発現のタイムコースは不明であった。半減期が長く安定して発現するEGFP mRNAを子宮内電気穿孔法により胎齢13.5日齢マウスの神経幹細胞に導入した。その結果、mRNA導入一時間後にすみやかにEGFPが発現した。EGFPの発現量は導入12時間後にプラトーに達した。また、半減期が二時間のd2EYFP mRNAを電気穿孔法により導入したところ、導入一時間後に発現が観察された。導入3時間後までは蛍光輝度が増加したが、その後減少し、12時間後にはほとんど観察されなかった。in situ hybridization法によりEGFP mRNAを検出したところ、EGFP mRNA量は導入一時間後から急速に減少し、12時間後にはほとんど観察されなかった。このことより、子宮内電気穿孔法によるmRNAの導入はプラスミドDNAと比較して速やかで一過的なタンパク質発現を誘導することが示された。 発生期の神経幹細胞は脳室層のapical面で分裂する。分裂時間は二時間以内であり、分裂後はbasal方向へ移動する。mRNA導入一時間後に脳室層のapical面に位置する神経幹細胞がEGFPで標識された。以上の結果から、子宮内電気穿孔法にmRNAを用いることにより、分裂速度の速い発生期の神経幹細胞の遺伝子発現を導入直後から効率的に制御することが可能になった。
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