研究課題/領域番号 |
21K06376
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
前田 純宏 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (70443025)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 尿由来細胞 / 直接誘導 / 神経変性疾患 / タウタンパク質 |
研究実績の概要 |
本提案では、尿中に含まれる細胞(Urine-derived cells: UDCs)を神経細胞に直接誘導し、体細胞を初期化せずに患者由来神経細胞を作成することによって、家族性神経疾患の病態モデルの確立と解析を行うことを目的としている。ヒト細胞を用いた病態モデルとしては、患者由来human induced pluripotent stem cells (hiPSCs)の利用が最も一般的になっているが、iPS化の段階で細胞が初期化されており、元のエピゲノム状態を消去してしまった細胞では患者のゲノム情報しか反映されていない。しかし、iPSCsを介さずに直接体細胞より神経細胞に誘導した場合は、エピゲノム情報を保存した状態の神経細胞を作出可能である。さらに、iPS化を介さない為に、神経細胞作出に要する期間は格段に短い。これは、iPS細胞を樹立を介する場合と比べると大きな利点であった。これらの利点をいかし、今年度はSMPD4患者を含む、複数のリソソーム病患者からの検体採取、および神経細胞への誘導に成功した。また、疾患ごと、ドナーごとに細胞生存率が異なる事も見出した。さらには、Anti-Tau siRNAを用いてタウタンパク質の発現を抑制した所、それによって細胞生存率が回復する群としない群とに分かれることが判明した。これは、同じリソソーム病においても、薬剤反応性が、疾患ごと、もしくはドナーごとに異なる可能性を示していた。今後は、より症例数、疾患数を増やし、薬剤反応性などを検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案では、尿中に含まれる細胞(Urine-derived cells: UDCs)を神経細胞に直接誘導し、体細胞を初期化せずに患者由来神経細胞を作成することによって、家族性神経疾患の病態モデルの確立と解析を行うことを目的としている。神経疾患の中でも、特に小児の神経疾患に絞って解析を進めている。しかし、コロナ禍にあって、小児神経疾患の患者が通院を取りやめる事例が多く発生し、本課題において重要な、患者検体の入手が困難になるケースが増えた。また、協力医療機関から、少しでも自宅に近い医療機関へと通院を変えるケースもあり、コロナ禍における臨床に根ざした研究の難しさが影響を与えている。 現在は、新規の検体採取には重きを置かずに、既にある検体を用いた解析に注力している。具体的には、これまでに入手した細胞を神経細胞に誘導し、ほとんどの検体で、神経細胞マーカーを発現している細胞の率が95%を超えていた。これは本技術の汎用性を示す、貴重なデータであった。さらに、薬剤反応性の確認まで行えており、疾患解析自体は順調に推移しているといえる。 また、小児の神経疾患以外にも、R406Wや、MAPTinsQなどのタウ遺伝子変異を持つ患者からの尿由来細胞の採取は続けており、協力機関に所属する医師の助けを借りながら、検体採取を進めている。しかし、タウ遺伝子変異によって発症する神経変性疾患は、高齢者において発症する疾患であり、被験者も高齢者となってしまう為に、コロナ禍の影響を強く受けている。しかし、限られた滞在時間の中でも検体採取出来るように、また、迅速に細胞培養が行えるように、関係機関と協力して検体採取を続けている。今後はこれらの検体においても、疾患解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、サンプル数は限定されてしまうものの、網羅的な転写産物解析を用いて、疾患表現型、および年齢依存性を示すpathwayの同定を行う。また、学会等で発表して、本技術、および本課題から得られた疾患解析における知見を広く共有していく。協力医療機関とも連携しながら、患者検体採取も続けていく。また、small libraryのdrug screeningが行えるように、まずは既に承認されており、かつ細胞モデルに対して効果があることが判明している薬剤等を用いて、この新規の細胞モデル系において薬剤反応性が評価可能であるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍において、物品の納品が大幅に遅れる事例が多発している。その一環として、今年度納品予定の物品が間に合わず、36,951円の余剰が生じてしまったが、これは、次年度以降に使用する予定である。
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