研究課題/領域番号 |
21K06378
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
竹尾 ゆかり 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (90624320)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 樹状突起 / 発達 / 小脳 / 分子機構 |
研究実績の概要 |
小脳プルキンエ細胞は、哺乳類神経系における樹状突起発達の優れたモデル細胞である。プルキンエ細胞の樹状突起は何百もの樹状突起が小脳皮質の3次元空間において互いに重ならず一平面状に配置される。このような、発達中の樹状突起が空間内に重複を避けて成長する機構は種を超えてあらゆる神経細胞でみられる普遍的な現象であり、樹状突起の「タイリング」あるいは「sel-avoidance(SA)」と呼ばれ、樹状突起同士が細胞表面接着因子を介したがいに反発しあうという機構によって制御されると考えられている。例えば先行研究においても、細胞表面に局在する膜タンパク質であるPcdh-alpha/gamma、およびROBO2が、プルキンエ細胞のSAを制御することが報告されている。しかし、多数の細胞が高密度に存在する脳において、樹状突起の規則正しい配置が、どのように個々の細胞接着因子によって制御されるのかはよくわかっていない。この問題を解決するため申請者は、新たにRPTPmという分子に着目した。RPTPmはトランスホモ結合によって細胞間接着を担うことが示唆されており、小脳プルキンエ細胞樹状突起に豊富に発現する。当該年度において申請者は、RPTPmがマウス小脳プルキンエ細胞樹状突起の樹状突起配置および平面形成に必要であることを明らかにした。また、RPTPmはPcdh-gammaとは異なるシグナル経路を介して樹状突起形態を制御する一方、面白いことに、ROBO2によるシグナル経路と干渉しあうことが示唆された。本研究成果は、多様な細胞接着因子がどのように複雑な細胞形態形成を制御するかという、普遍的な問いに答えるための手掛かりになると考えられ、引き続き次年度の研究成果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度の研究によって、プルキンエ細胞においてRPTPmが樹状突起の平面形成やSA(self-acoidance)に必要であることが明らかになった。またプルキンエ細胞のSA制御機構は、PTPmと、既知の別のSA制御分子とが、互いのシグナル経路へ影響しあうことで調節されていることが示唆され、この予想もしていなかった結果は、本研究によって、多様な分子による細胞接着シグナルがどのように協調的に樹状突起発達を制御するかという、重要だが介入が難しい新たな課題に答えることが可能となる点で大きな意義がある。今後さらにRPTPmが他の分子と影響しあいながらSAを制御する分子機構を解明することで、樹状突起形成の分子機構研究において大きな概念的進歩をもたらすことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在、当初の計画通り、別々のプルキンエ細胞間の相互作用を別々の蛍光タンパク質でモザイク状に可視化して2光子顕微鏡によってタイムラプス観察するin vivoイメージング実験系を確立しつつある。今後はこの実験系を用いて、当該年度の研究成果を踏まえ、RPTPmによる樹状突起SAあるいはタイリングの制御機構のみならず、そのシグナル経路が他の分子とどのように制御しあって働いているのかも解明していく。そのために、複数の分子を機能欠損させたうえで接触しあう樹状突起や別々の細胞同士を、in vivoでモザイクラベルする方法も確立中である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究において予想外の興味深い実験結果が得られたことによって、当初の研究計画に変更が生じたため、当該年度に行う予定であった実験の一部を次年度に行うことになった。そのためこの価格差を翌年度に使用したい。
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