研究実績の概要 |
1980年代から提唱されてきた「脳老化のカルシウム仮説」では、細胞内Ca2+濃度の上昇が神経細胞死を起こし認知症を発症すると考えられていた。しかし、Ca2+濃度上昇による細胞死のみでは神経細胞死以前に生じる機能低下や軽度認知症の発症メカニズムそして認知症に共通の所見である神経原繊維の形成は説明できない。 近年のクライオ電子顕微鏡の技術的革命によりポリグルタミン病で生じる細胞内繊維タンパク質が小胞体と接触していることが明らかにされた。これは認知症に共通する神経原繊維の形成に小胞体が関与することを強く示唆する。本研究では小胞体の微小領域(マイクロドメイン)におけるCa2+シグナルに焦点を当て認知症の分子メカニズムの解明を目指す。 小胞体の構造は古典的な教科書に記述されているように細胞核の周囲に局在する単純なものでは無く、細胞内のあらゆる部位に広域分布し、細胞質膜やミトコンドリアそしてリソソームなどの数々の細胞内小器官と物理的に結合する膜接合部位を形成することが明らかになって来た。最近の研究ではこの小胞体マイクロドメインの膜接合部位がアポトーシスやオートファジーそして細胞老化を制御するホットスポットになることが報告されている。 本研究では小胞体マイクロドメインにおけるCa2+チャネルに注目しユニークな構造変換現象を見出し新規のチャネル可塑性モデルを提案した(Ann Rev Physiol,2020)。更に欧米の研究室と国際共同研究を行った(BBA,2022, Cell Death Diff, 2022)。今後は更にこれを深め小胞体マイクロドメインのCa2+シグナルが認知症発症機構と関与する可能性を検証していく。
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