本研究の目的は新規一次繊毛局在分子の同定と機能解析を通じ、一次繊毛を介したシグナル伝達による神経回路形成機構の解明である。一次繊毛は細胞外シグナルを受容し細胞内へと伝達する役割を担う細胞器官であるが、一次繊毛を介したシグナルの全容は未だ明らかではない。そこで本年度は2022年度に同定した新規繊毛形成関連分子c6orf141(chromosome 6 open reading frame 141)の分子機能に焦点を絞り解析を進めた。さらに、研究代表者が新たに確立したタンパク質とRNAとの結合を迅速かつ簡便に検出する新規手法であるFRIP法(論文投稿中)を用いた解析から、c6orf141はタンパク質分子のみならずRNA分子とも相互作用することを新たに発見した。さらにその結合領域としてC末端側の約50アミノ酸が関与することも明らかにした。バイオインフォマティクスによる構造予測から、この領域は天然変性領域であることが予測され、従来のタンパク質-RNA間の結合様式とは異なる新たな結合様式の可能性が示唆された。C6orf141は細胞内では繊毛の根本に位置する中心体に局在する。この中心体への局在はC6orf141のN末端領域が必要であることを既に見出しているが、RNA結合領域を欠損する変異体タンパク質では中心体への局在に変化は見られなかった。現在、PAR-CLIP法などにより結合するRNA分子およびその配列の特定を進めており、RNA分子による一次繊毛の形成機構を明らかにできる可能性がある。
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