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2022 年度 実施状況報告書

ミクログリアのTLR3-IFNbシグナリングによるグリオーシス制御機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 21K06383
研究機関安田女子大学

研究代表者

中西 博  安田女子大学, 薬学部, 教授 (20155774)

研究分担者 野中 さおり  安田女子大学, 薬学部, 講師 (40767787)
研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードカテプシンH / トル様受容体3 / インターフェロン-beta / ミクログリア / アストロサイト
研究実績の概要

2022年度は主に培養ミクログリアならびにアストロサイトを用いた実験を行なった。
①低酸素/脳虚血に伴うミクログリア細胞死におけるトル様受容体3(TLR3)・インターフェロン(IFN)-alpha/beta受容体シグナリングの役割:低酸素/脳虚血に伴い活性化したミクログリアの産生分泌するIFN-betaが、ミクログリア細胞死(活性化誘導細胞死)を抑制することが示唆される。そこでTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングのミクログリア細胞死(活性化誘導細胞死)に及ぼす影響を解析した。その結果、カテプシンHの短鎖干渉RNA(siRNA)導入により実験的脳虚血(無酸素+無グルコース)により誘発されるミクログリア株化細胞(MG6)の細胞死は有意に増大した。また、リコンビナントIFN-betaは実験的脳虚血により誘発されるMG6の細胞死を有意に抑制した。
②アストロサイト増殖におけるTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングの役割:低酸素/脳虚血に伴い活性化したミクログリアの産生分泌するIFN-betaが、IFN-alpha/beta受容体を介してアストロサイト増殖を抑制することが示唆される。そこでTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングのアストロサイト増殖能に及ぼす影響を野生型マウスの脳より調整した初代培養アストロサイトを用いて解析した。その結果、IFN-betaはアストロサイトの増殖・遊走を有意に抑制した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

申請者らは、リソソーム性プロテアーゼの一種であるカテプシンHを欠損させたマウスでは低酸素/脳虚血により海馬において著明なニュー ロン死と高度なアストログリオーシスが生じ、脳萎縮は軽度であることを突き止めた。一方、野生型マウスでは、低酸素/脳虚血により著明な脳萎縮が生じた。そこで本研究は、カテプシンHの脳機能の回復における役割を解明することを目的とした。現在までに、マウス個体を用いた実験により以下の知見を得た。(1)TLR3ならびにリン酸化STAT1の発現は低酸素/脳虚血を負荷した野生型マウスのミクログリアに認められたが、カテプシンH欠損マウスには認められなかった。(2)カテプシンH欠損ミクログリア/マクロファージではIFN-beta産生分泌が有意に低下していた。(3)カテプシンH欠損マウスではニューロン死に伴って海馬に集積した貪食性ミクログリアの細胞数は野生型マウスと比べて著しく少なかった。
さらに培養ミクログリアならびにアストロサイトを用いた実験により以下の知見を得た。(4)カテプシンHのsiRNA導入により実験的脳虚血により誘発されるMG6ミクログリアの細胞死は有意に増大した。(5)リコンビナントIFN-betaは実験的脳虚血により誘発されるMG6の細胞死を有意に抑制した。(6)初代培養アストロサイトを用いてアストロサイト増殖・遊走能に対するリコンビナンIFN-betaの作用をスクラッチアッセイ法により解析した結果、IFN-betaはアストロサイトの増殖・遊走を有意に抑制した。
以上の結果、カテプシンHはミクログリアにおけるTLR3・IFN-alpha/beta受容体シグナリングを介し、死細胞貪食後の貪食性ミクログリアの生存維持ならびにアストロサイトの増殖・遊走制御(グリア瘢痕形成の抑制)に関与することが示唆された。

今後の研究の推進方策

脳損傷に伴って生じる高度なアストログリオーシスはニューロンの変性脱落に伴う脳萎縮を抑制し、炎症が脳全体に広がるのを防ぐバリアとしての役割を果たすと考えられる。しかし一方で、神経回路の再生・修復を物理的に妨げ、毒性物質を放出することで脳機能の回復を抑制するという指摘もある。このようにアストログリオーシスは二面性の役割を持つため厳密に制御されていると考えられ、アストログリオーシスの脳損傷後の脳機能回復における意義を解明することは極めて重要である。
本研究では、カテプシンH欠損マウスではニューロン死に伴い高度なアストログリオーシスが形成されることを明らかにした。具体的には、野生型マウスでは低酸素/脳虚血負荷に伴いアストログリオーシスが軽度で、高度な脳萎縮が生じた。一方、カテプシンH欠損マウスでは低酸素/脳虚負荷に伴い高度なアストログリオーシスが形成され、軽度な脳萎縮しか生じなかった。そこで2023年度は、低酸素/脳虚血負荷後の野生型ならびにカテプシンH欠損マウスの認知機能を比較することで、脳萎縮ならびにアストログリオーシスの脳機能回復に及ぼす影響を比較検討する。具体的には以下の実験を行う予定である。

次年度使用額が生じた理由

発注していた消耗品のうち、納期が次年度になるものが数件生じた。このため、これらの発注は一端キャンセルし、これらに充てていた予算を次年度の持ち越した。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Targeting cellular gaps using Janus nanoparticles containing cationic polymers and surfactant lipids2023

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto Akihiro、Kitazawa Takeo、Hatori Yuta、Nakanishi Hiroshi、Watanabe Chie、Takashima Tomoya、Murakami Masahiro
    • 雑誌名

      Drug Discoveries & Therapeutics

      巻: 17 ページ: 104~113

    • DOI

      10.5582/ddt.2022.01118

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Differential Expression and Distinct Roles of Proteinase-Activated Receptor 2 in Microglia and Neurons in Neonatal Mouse Brain After Hypoxia-Ischemic Injury2022

    • 著者名/発表者名
      Liu Yicong、Li Hui、Hu Jiangqi、Wu Zhou、Meng Jie、Hayashi Yoshinori、Nakanishi Hiroshi、Qing Hong、Ni Junjun
    • 雑誌名

      Molecular Neurobiology

      巻: 59 ページ: 717~730

    • DOI

      10.1007/s12035-021-02594-5

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Secreted gingipains from Porphyromonas gingivalis increase permeability in human cerebral microvascular endothelial cells through intracellular degradation of tight junction proteins2022

    • 著者名/発表者名
      Nonaka Saori、Kadowaki Tomoko、Nakanishi Hiroshi
    • 雑誌名

      Neurochemistry International

      巻: 154 ページ: 105282~105282

    • DOI

      10.1016/j.neuint.2022.105282

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Microglial cathepsin E plays a role in neuroinflammation and amyloid β production in Alzheimer’s disease2022

    • 著者名/発表者名
      Xie Zhen、Meng Jie、Kong Wei、Wu Zhou、Lan Fei、Narengaowa、Hayashi Yoshinori、Yang Qinghu、Bai Zhantao、Nakanishi Hiroshi、Qing Hong、Ni Junjun
    • 雑誌名

      Aging Cell

      巻: 21 ページ: e13565

    • DOI

      10.1111/acel.13565

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] ATP13A2 modifies mitochondrial localization of overexpressed TOM20 to autolysosomal pathway2022

    • 著者名/発表者名
      Hatori Yuta、Kanda Yukina、Nonaka Saori、Nakanishi Hiroshi、Kitazawa Takeo
    • 雑誌名

      PLOS ONE

      巻: 17 ページ: e0276823

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0276823

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Human β-Defensin 3 Inhibits Porphyromonas Gingivalis Lipopolysaccharide-Induced Oxidative and Inflammatory Responses of Microglia by Suppression of Cathepsins B and L2022

    • 著者名/発表者名
      Inoue Erika、Minatozaki Shiyo、Katsuta Yui、Nonaka Saori、Nakanishi Hiroshi
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 23 ページ: 15099~15099

    • DOI

      10.3390/ijms232315099

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 歯周病菌LPSによりミクログリアにおいて産生・分泌されるサイトカイン類の網羅的解析2022

    • 著者名/発表者名
      大森朱莉、大本凜、野中さおり、中西博
    • 学会等名
      第61回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会 中国四国支部学術大会
  • [学会発表] ヒト beta-ディフェンシン-3の歯周病菌LPSにより誘発されるミクログリアの酸化ストレスならびに炎症反応に対する抑制作用2022

    • 著者名/発表者名
      崎紫陽、井上瑛里加、野中さおり、中西博
    • 学会等名
      第61回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会 中国四国支部学術大会
  • [学会発表] ヒト beta-ディフェンシン-3の歯周病菌LPSにより誘発されるミクログリアの酸化ストレス・炎症反応に対する抑制メカニズム2022

    • 著者名/発表者名
      井上瑛里加、湊崎紫陽、野中さおり、中西博
    • 学会等名
      第61回日本薬学会・日本薬剤師会・日本病院薬剤師会 中国四国支部学術大会

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公開日: 2023-12-25  

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