研究課題/領域番号 |
21K06391
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
繁冨 英治 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00631061)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | アストロサイト / ATP / アデノシン / ミクログリア / カルシウムシグナル / フィードバック抑制 / 海馬 / イメージング |
研究実績の概要 |
正常な神経活動には興奮-抑制の適切なバランス制御が必須である。その制御メカニズムの1つのフィードバック抑制にはグリア細胞を介したアデノシン産生の寄与が指摘されているものの、その実態は不明である。この実態解明のため、高解像度による細胞外ATP/アデノシンの時空間情報を先端的イメージング技術によって解析した。新規ATPおよびアデノシン蛍光センサーをマウスのニューロンもしくはアストロサイトに発現させ、急性海馬スライス標本を用いて持続的な電気刺激によって誘発される細胞外ATP/アデノシンの時空間変化を可視化した。電気刺激誘発のATP/アデノシン増加はともに活動電位依存的であったが、グルタミン酸受容体拮抗薬への応答性が異なった。AMPA/KA/NMDA受容体遮断は、ATP増加に殆ど影響を与えなかったが、アデノシン増加をほぼ消失させた。昨年度の研究によりミクログリアがアデノシン増加に影響していることが判明していたため、そのメカニズムを詳細に解析した。その結果、ニューロン活動に応じて放出されたCX3CL1がミクログリアのCX3CR1に作用してアデノシン放出を惹起する可能性を見出した。既報では、ミクログリアに高発現するCD39によって細胞外ATPが代謝され、その結果アデノシンが増加することが示されている。しかし、CD39阻害薬は刺激誘発アデノシン増加に影響しなかったことから、我々の実験系においてはCD39を介した細胞外ATP代謝経路がアデノシン増加に与える影響は小さいと考えられた。以上より、高解像度細胞外ATP/アデノシンのイメージング法により、神経活動に依存した細胞外アデノシン増加の新たなメカニズムを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度までに確立した細胞外ATPおよびアデノシンの時空間特性解析方法を用いて神経活動に依存した細胞外ATP/アデノシンの制御機構の一端を明らかにした。従来から細胞外アデノシンは細胞外ATPの代謝の結果であると広く考えられており、細胞外アデシンレベルは細胞外ATPレベルに応じて従属的に変化すると想定されていた。しかし、本年度の成果で、細胞外アデノシンの増加には細胞外ATP増加とは独立したメカニズムの存在が示された。細胞外アデノシンの制御メカニズムについて、ミクログリアの寄与について昨年度までに明らかにしていたが、本年度の成果により、既報で報告されている細胞外ATP代謝によるアデノシン産生ではなく、ミクログリアからのアデノシン放出という予想外の結果を得ることができた。以上より、期待以上の成果が得られたと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
ATPセンサー、アデノシンセンサーを用いた実験を継続して行い、細胞外ATP及びアデノシンが増加するメカニズムを薬理学的に明らかにする。アデノシン増加に関しては、神経活動依存的にミクログリアからアデノシンが放出されるという新しいメカニズムを見出した。今後は、アデノシン放出に寄与する分子を同定し、その機能阻害によるアデノシン放出への影響およびフィードバック抑制との関係性を明らかにするために、ニューロンにカルシウム感受性蛍光たんぱく質を発現させ、アデノシンセンサーと同時イメージングを行う。実験条件は安定しており、これまでに蓄積されたノウハウを生かして強力に研究を推進する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予定通り以上に実験が進んだが、初年度の実験計画に遅れが生じた影響のため、引き続き次年度使用額が生じた。最終年度は実験を加速させたい。
|