研究課題/領域番号 |
21K06394
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
高山 千利 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60197217)
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研究分担者 |
清水 千草 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70435072)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | GABA / グリシン / 神経損傷 / 神経再生 / KCC2 / ミクログリア / 脛骨神経 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
GABAとグリシンは、成熟動物の主要な抑制性神経伝達物質である。両者は幼若期に興奮性応答を示す事から、形態形成に関与すると考えられてきた(Kobayashi et al. 2021, Shimizu et al. 2022)が、ノックアウトマウスの解析から、現在は否定的である。我々は、神経損傷後の運動神経軸索の再生期にもGABA/グリシンが興奮性応答を示すことを見出し(Tatetsu et al. 2012, Kim et al. 2018)、応答性の変化が損傷軸索の再生を加速するという仮説をたてて研究を行っている。 ①新しいタイプの神経損傷モデルとして、脛骨神経結紮動物を用い、損傷後の変化を解析した。その結果、(1)ミクログリアの活性化⇒KCC2発現の減少⇒軸索再生のシグナル経路が認められ、神経損傷後に共通する現象であることが示された。(2)ガラニン、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)2つの分子の動きが神経軸索の変性と再生を示す客観的指標となることが明らかになった。この研究は、Neuroscience Research誌に掲載された(Yafuso et al. 2022)。 ②GABA/グリシンを抑制性に導く輸送体(KCC2)を半減させてたKCC2ノックアウトマウスのヘテロ接合体と野生型を比較して、運動神経切断・縫合後の運動機能の変化などを解析した。その結果、KCC2が半減し、GABA/グリシンの応答性が興奮性にシフトしたマウスにおいて、(1)運動機能の障害程度が低く回復が早い。(2)神経軸索の再生が早く進行する。2つの傾向が認められた。現在、現在動物数を増やし検討を重ねている。 ③野生型マウスとKCC2ノックアウトヘテロ接合体について神経損傷後脊髄におけるmRNA解析を行って、大きく変化する分子について解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①種類の異なる神経損傷マウスの解析において切断モデルと同様の結果をえられた。我々の仮説が1つ裏付けられ、投稿した論文が受理され、雑誌に掲載された。 ②KCC2ヘテロマウスの研究においては、順調に進んでおり、行動解析、組織学的解析、マーカー発現解析を予定通り進めている。 ③mRNAの発現変化の解析は予定通り終了している。今後2年間かけて、下流にある分子の特定を行う予定で進めている。 ④治療に向けた取り組みは、今後①~③の結果を見て実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
①KCC2ノックアウトヘテロ接合体の解析を継続し、以下の点を明らかにする。(1)十分な動物数で実験を行い、KCC2発現量の減少、GABA/グリシンの応答性の変化が運動機能の回復、神経線維の再生を有意に促進しているかを確定させる。(2)神経軸索の変性・再生過程がどのように異なるかを詳細に解析し、機能回復の直接の要因を確定する。その際、マーカーを用いて客観的評価を行う。 ②①で示したモデルに対して、硫化水素を吸入させ、神経再生が遅延するか(GABA/グリシンの興奮性へのシフトが抑制されるため)、解析する。 ③KCC2減少の下流にある分子を特定し、実際にモデルマウスにおいて変化しているかを確定し、そのメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
KCC2ノックアウトマウスの繁殖に一時的にトラブルが生じたため、動物費用が予定より少なくなった。次年度は、繁殖を加速させ、動物実験を進める予定である。予定していた学会がWeb開催となり、出張費用などが計上されなかった。次年度には対面での発表を多くする予定である。
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