研究実績の概要 |
GABAとグリシンは、成熟動物の主要な抑制性神経伝達物質である。両者は幼若期に興奮性応答を示す事から、形態形成に関与すると考えられてきた(Shimizu et al. 2022)が、ノックアウトマウスの解析から、現在は否定的である。我々は、神経損傷後の運動神経軸索の再生期にもGABA/グリシンが興奮性応答を示すことを見出し(Tatetsu et al. 2012, Kim et al. 2018)、ミクログリアの活性化⇒KCC2発現の減少⇒軸索再生のシグナルとつながる経路があるとの仮説(Yafuso et al. 2022)を立てて研究を進行してきた。2023年度は、GABA/グリシンを抑制性に導く輸送体(KCC2)を半減させたKCC2ノックアウトマウスのヘテロ接合体と野生型を比較して、運動神経切断・縫合後の運動機能の変化などを解析し、以下の事を明らかにした。ヘテロ接合体マウスでは、①運動機能障害程度が軽度である、②軸索の変性は早く進行する、③術後7日目で、軸索が長く再生している、④術後21日目以降、有意に有髄軸索の密度が高い、⑤変性ニューロンのマーカーであるガラニン陽性細胞が少ない、⑥運動ニューロンの機能マーカーであるアセチルコリン合成酵素の発現量が高い、ことが明らかになった。これらの事から、KCC2の発現低下、GABA/グリシンの興奮性が軸索の変性・再生・有髄化を促進させ、その結果として運動機能の回復に有効であることが証明された。この結果をもとに論文を作成し、学術誌に投稿し、現在Revise中である。 加えて、KCC2低下と関連した遺伝子の探索のためにmRNA解析を始めた。変動する分子は多数見つかったが、軸索再生に直接寄与する分子の特定には至らなかった。
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