研究課題
近年の研究で、成体哺乳類の脳においても、ニューロン移動が観察されることが明らかになった。脳室下帯の神経幹細胞から産生された新生ニューロンは、吻側移動流(RMS)と呼ばれる特殊な移動経路を通って、嗅覚の一次中枢である嗅球へと移動する。RMSでは、 新生ニューロンは鎖状に連なり、アストロサイトが形成するトンネルの中を高速で移動する。 最近では、ヒト新生児脳においても、脳室下帯の新生ニューロンが嗅球や大脳皮質へと移動することが報告され、新生ニューロンの移動は生後脳の機能発達に極めて重要と考えられている。細胞外マトリックス分子群は、生後の神経回路の維持に必須である。細胞外マトリックス分子群は、発達期には成熟した神経回路の構築に関与するほか、傷害脳では、軸索の再生過程を正または負に制御することが報告されている。しかし、生後脳のニューロン移動における役割は不明である。2022年度は、新生ニューロンの鎖状移動や周囲の細胞群との相互作用の制御機構について、in vivoでの機能阻害実験を行い、その効果を組織学的に解析した。また、超解像顕微鏡を用いた培養した新生ニューロンのタイムラプスイメージングと機能阻害実験を組み合わせ、成長円錐伸展や鎖状移動における役割を詳細に解析した。さらに、生後脳のRMS組織の分画等を実施して、ニューロン移動に関与する可能性のあるタンパク質群を網羅的に同定するとともに、その特徴を分類し、成長円錐伸展における機能を明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
2022年度に計画した実験は全て完了し、ニューロン移動の制御機構に関与する分子を同定することができた。それに加えて、2023年度に計画したin vivo及びin vitroの機能阻害実験の予備実験や、細胞培養実験の培養方法の検討をすでにスタートさせた。さらに、移動する新生ニューロンに発現するタンパク質の特徴について、複数のタンパク質分画実験を組み合わせて、新生ニューロンの成長円錐伸展や移動を制御すると考えられるタンパク質群の発現プロファイル及び機能を明らかにできた。したがって、本研究課題の進捗状況は、当初の計画以上に進展していると判断した。
2022年度に引き続き、ニューロン移動の制御に関与する分子の機能を解明するため、in vivoおよびin vitroの機能阻害実験を遂行する。また、培養した新生ニューロンの鎖形成と移動の効率の関係について、独自に構築している培養系を用いて評価する。さらに、2022年度に引き続き、新生ニューロンの成長円錐伸展や移動制御に重要なタンパク質の発現を解析する。機能解析には、基質コートや各種ゲル培養等を組み合わせた超解像顕微鏡によるタイムラプスイメージングや、in vivoにおけるレンチウイルスベクターを用いたノックダウン実験等を組み合わせて進める。
当初の計画よりも消耗品の購入が少なかった。翌年度の消耗品等の物品費に充てる予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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