近年の研究で、成体哺乳類の脳においても、ニューロン移動が観察されることが明らかになった。脳室下帯の神経幹細胞から産生された新生ニューロンは、吻側 移動流(RMS)と呼ばれる特殊な移動経路を通って、嗅覚の一次中枢である嗅球へと移動する。RMSでは、 新生ニューロンは鎖状に連なり、アストロサイトが形成 するトンネルの中を高速で移動する。 最近では、ヒト新生児脳においても、脳室下帯の新生ニューロンが嗅球や大脳皮質へと移動することが報告され、新生 ニューロンの移動は生後脳の機能発達に極めて重要と考えられている。 細胞外マトリックス分子群は、生後の神経回路の維持に必須である。細胞外マトリックス分子群は、発達期には成熟した神経回路の構築に関与するほか、傷害脳 では、軸索の再生過程を正または負に制御することが報告されている。しかし、生後脳のニューロン移動における役割は不明である。 2023年度は、コンドロイチン硫酸の発現制御とニューロンの鎖形成機構について、新生ニューロンの培養系を用いて、移動するニューロンの鎖状移動の太さと移動速度の関係を明らかにした。また、PTPsigmaの基質の同定および機能について、プロテオミクスの結果からアクチン相互作用分子cortactinを同定し、その421番目のチロシンリン酸化が成長円錐に濃縮することを見いだした。さらに、cortactinの421番目のアミノ酸置換体を用いた機能解析により、ニューロン移動におけるcortactinの421番目のチロシンリン酸化の重要性を明らかにした。
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