研究課題/領域番号 |
21K06398
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
中村 行宏 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (40460696)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シナプス前終末 / カルシウム / シナプス伝達 / Held萼状シナプス |
研究実績の概要 |
聴覚伝導路上のHeld萼状シナプスの巨大シナプス前終末では、活動電位の発生に伴って一過性の細胞内カルシウム(Ca)上昇がCaイメージングによって観察される。ところが長時間イメージングを続けていると、活動電位の発生とは独立に生じるCa上昇が存在することが見出された。本研究において、“Ca spark”とはシナプス前終末における活動電位非依存性のCa一過性上昇をいう。 2021年度は、このCa sparkの基本的性質を明らかにするため、齧歯類の脳幹の急性スライス標本を作製し、Held萼状シナプス終末端からパッチクランプ記録を行った。パッチ電極より高親和性の蛍光Ca指示薬を注入し、高感度CMOSカメラを用いて同時にCaイメージングを行った。聴覚獲得前の生後1週齢のシナプス前終末ではCa sparkはほとんど観察されなかったが、聴覚獲得後の生後2週齢以降のシナプス前終末からは平均0.01-0.05Hzの頻度でCa sparkが観察された。Ca sparkの発生は活動電位とは相関せず、活動電位の閾値以下の膜電位の変動とも独立のように見えた。Ca sparkは、成熟したシナプス前終末の枝分かれして膨大した先端部(swellings)で発生しているように見えたが、CMOSカメラの空間解像度ではスライス組織中のシナプス前終末内部の発生部位を同定することは困難であった。2022年度は、共焦点レーザー顕微鏡によるCaイメージングによってシナプス前終末内の発生部位を検討するとともに、Ca sparkの発生機序の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の影響による世界的な半導体不足のため、Caイメージング実験に必須の高感度CMOSカメラの納入が約半年遅延した。この期間は、本計画研究のための新しい実験には着手できず、過年に取得したデータの解析を行うにとどまった。CMOSカメラ納入後は、およそ想定通りの方向性で進捗しているが、2021年度末の段階では研究計画発足時のタイムスケジュールには追い付いていない。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度学内設備予算により共焦点レーザー顕微鏡を導入することとなった。現在使用中のCMOSカメラよりも高解像度のデータが取得できると期待されるため、小脳や海馬シナプスへの展開に備えて実験系の立ち上げを急ぐ。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的半導体不足の影響により当初購入予定であった高感度CMOSカメラの納入が大幅に遅れると予測されたので、納入遅れの影響がより少ない上位機種に変更した。上位機種への変更理由は、カメラの感度を上げるという理由もあった。このため2021年度前半では研究予算に不足が生じることとなり、2021年9月に2022年度分を前倒し請求した。結果的に2021年度末には残額が生じることとなったが、計画当初の予定では2022年度に使用する実験消耗品代であり、使用計画全体としては大きな変更はない。
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