研究課題/領域番号 |
21K06402
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
宮下 知之 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 主席研究員 (70270668)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | NMDA受容体 / ドーパミン受容体 / 順行条件付け / 逆行条件付け |
研究実績の概要 |
パブロフの発見した古典的条件付けでは、条件刺激(conditioned stimulus: CS)と同時若しくは後に無条件刺激(unconditioned stimulus: US)が提示される(順行条件付け)と条件付けが成立する。しかし何故 US が CS に先行する逆行条件付けでは条件付けが成立しないのか?そのメカニズムについては全く明らかになっていない。ショウジョウバエによる匂いと電気ショック(ES)を用いた学習においても、順行条件付けは成立するが逆行条件付けは成立しない。研究代表者は、NMDA 受容体(NR)の Mg2+ block のショウジョウバエ変異体で、順行条件付けだけでなく、逆行条件付けでも条件付けが成立する事を見出した。本研究では Mg2+ block が CS と US の順序検知器として働くことで CS と US の順序(因果律) に則った ドーパミン(DA) による強化が可能になる(逆に Mg2+ block が無いと因果律に則らない逆行条件付けでも強化が起きてしまう)との仮説を立て、これを実証することを目的に実験を遂行した。 ESの情報は学習記憶の中枢であるキノコ体(MB)を囲むグリア細胞から放出されてるグルタミン酸によってキノコ体やDA神経細胞(DAN)に伝達される。匂いに先行するESでは、MBではNRのMg2+ blockによってESの情報は入力できないが、DANではKinate受容体(KR)が活性化することでDAが放出する。先行するESによるDA放出を DANのKRをノックダウンすることでなくすと逆行条件付けが成立する事を見出した(Science, 2024)。この発見は先行するUSによって放出されるDAは、逆行条件付けの条件付け不成立に必要であることを示唆している。これらのことを受けてこのDA放出によって活性化するD2受容体のノックダウンでも逆行条件付けが成立するを見出し、逆行条件付け不成立のメカニズムを明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この研究を大学院(修士課程)の学生と一緒に進めることになり、基礎から教えながらの進行になったため。また、miyashita et al., Science 2023をアクセプトさせるための実験に時間をとられてしまい、計画通りに実験を行えなかった。
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今後の研究の推進方策 |
相反する機能を持つD1受容体とD2受容体が、同一細胞上に発現しているとき、どちらか一方の受容体が活性化できる条件があると考えられる。NRのMg2+ blockの変異体に置けるES時の細胞内Ca2+流入や、D2受容体のノックダウンの結果、学習時のcAMPの変化から、D2受容体の活性化、不活性化には細胞内Ca2+の有無があると考え、このメカニズムを生化学的、生理的に明らかにして、逆行条件付けの条件付け不成立のメカニズムを明らかにしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
この研究を大学院生と行う事になり、基礎から教えたために進行が遅くなった。また、本研究の前段階の研究であるMiyashita ert al., Science 2023のアクセプトに時間がかかり、この研究の実験をの進行が計画通りに進まなかった事から繰り越しが生じた。今度逆行条件付け不成立に関わるドーパミン受容体の活性化、不活性化のメカニズムを探る実験を行う。
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