研究実績の概要 |
Sbno1は複数のヒトゲノム解析によって統合失調症や精神遅滞に関連した遺伝子の1つと指摘されてきた(Girard et al., 2011; Ripke et al., 2014; Bulayeva et al., 2015; Thyme et al., 2019など)。一方で、我々は大脳皮質の発生に関わる新規遺伝子のスクリーニングの結果Sbno1を同定した(Baba et al., 2007)。 そこで本研究計画では大脳皮質でのSbno1の機能について知見を得るためにSbno1ノックアウト(KO)マウスを作成した。このマウスは生後3週目には痙性麻痺を呈するようになる。生後3週目のKOマウスの脳を組織観察すると、大脳皮質の低形成が見られた。その原因を調べるために鍍銀染色を行ったところ、大脳皮質錐体ニューロンの樹状突起と軸索の発達が悪いことがわかった。さらに大脳皮質ニューロンの一次培養を行い顕微鏡下で神経線維の発達を観察したところ、線維の伸長が遅いことがわかった。Sbno1は核内因子であるので神経線維の発達についてニューロンで内在的に働いていることが示された。 KOマウスの大脳皮質をさらに組織学的に調べたところ、散漫にTUNEL陽性の細胞が生じていることがわかった。しかしSbno1がアポトシスを直接抑制しているのであれば、Sbno1欠損ニューロンは全てアポトシスを起こさなくてはならない。Sbno1はヘリカーゼであるのでゲノムDNAに対して何らかの働きをしているはずである。実際にSbno1KOマウス大脳皮質でDNA損傷応答分子が上昇しており、コメットアッセイからSbno1欠損ニューロンではゲノムDNAが激しく損傷していることが示された。つまりSbno1はニューロンのゲノムDNAを保護する役割を果たしており、この分子機能が神経線維の発達に必須であることがわかった。
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