研究課題/領域番号 |
21K06415
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研究機関 | 兵庫医科大学 |
研究代表者 |
前田 誠司 兵庫医科大学, 医学部, 准教授 (10309445)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 腎臓 / 交感神経 / シュワン細胞 / 神経終末 |
研究実績の概要 |
腎臓交感神経の終末シナプス形態およびシュワン細胞による支持様式を明らかにするために、腎輸入細動脈周囲の神経終末を電子顕微鏡による観察および、免疫組織化学法による各種接着関連分子の分布を観察した。腎神経の終末シナプスは、エフェクター細胞の基底膜にゆるく接合しており、神経終末バリコシティのシナプス前膜には高電子密度のアクティブゾーンがみられた。これらはシュワン細胞の突起に覆われており、小胞からのトランスミッター放出が間質空間への単純な拡散ではなく、三者間シナプス構築によって指向性および濃度の調整が行われている可能性を示唆するものである。また、先行研究のラット脾臓神経のシュワン細胞シングルセルRNAシークエンスのデータを元に、いくつかの接着関連分子を選別し、免疫組織化学的にⅥ型コラーゲンとそのリガンドであるNG2、およびニューロリギン3がシュワン細胞、エフェクター細胞、そして神経終末に局在することを確認した。以上から、腎神経の神経終末を支持し、その機能調節に関わると考えられる三者間シナプス構造についての新たな知見を得ることができた。また、先行研究の遺伝子発現データとの比較から、腎神経のシナプス構築には、他器官のシナプスと異なる遺伝子発現がある可能性がある。よって、上記の接着関連分子の発現および機能分析のために、S-100B遺伝子プロモーターにeGFPをタグした遺伝子導入ラットを用いて腎神経シュワン細胞の単離および発現遺伝子解析を進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
21年度は、主に腎交感神経終末シナプスの超微細構造の観察および、神経終末とエフェクター細胞(細動脈平滑筋細胞)およびそれらを支持するシュワン細胞の接合様式について、関連分子の同定を行った。当初の予定では、腎神経を蛍光標識してそのシナプス接合部位を形態的に解析する予定であったが、蛍光遺伝子導入が確率的に低く、予想以上に時間を要する為、同時進行で電子顕微鏡による観察およびオンラインでオープンになっているラット脾臓神経のシュワン細胞の遺伝子発現情報の解析により、研究の進展を試みた。これらの実験により、腎臓神経の終末部にみられるシナプス小胞やアクティブゾーン、基底膜との接着様式について、いくつか新たな知見が得られた。また、オンライン遺伝子解析による接着分子の発現・局在を観察し、Ⅵ型コラーゲンやそのリガンドのNG2、そしてシナプス前膜におけるニューロリギン3の局在など、これまで報告されていない新たな分子候補を得られた。そして、これらの発現の確証を得るために、腎シュワン細胞の単離および発現遺伝子解析を行う必要ができた。シュワン細胞の単離には細胞の特異的な蛍光標識およびセルソーターによる分離を計画し、バイオリソースプロジェクトよりS100B陽性細胞に蛍光タンパク質を発現させたトランスジェニックラットを導入した。若干の研究計画の修正を行ったが、ラット腎交感神経終末の三者間シナプス構造およびその機能を明らかにするための研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
腎交感神経終末における三者間シナプス構築に寄与するシュワン細胞より、シナプス終末支持に関与する接着分子の遺伝子の同定を行う。現在、S100B陽性細胞に特異的にeGFPを発現させるトランスジェニックラットを導入し繁殖させている。これらのホモ個体の腎臓からS-100B陽性シュワン細胞をセルソーターで単離し、遺伝子発現解析を行う。候補となる接着関連分子(進捗状況参照)のmRNAおよびタンパク質発現の確認に加え、インテグリンやそのリガンドの発現も検索する。さらに、単離シュワン細胞の交感神経ニューロンとの共培養を行い、上記の接着分子群に関して、中和抗体やインヒビターによる細胞同士、およびプレートコーティング(ラミニンやフィブロネクチン)の接着阻害実験を計画している。 腎神経三者間シナプス構築の機能と病態生理学的重要性を明らかにするために、病態モデルラットの作出を行う。病態モデルとして、以前に確立した腎動脈の虚血/再灌流モデルもしくは尿管結紮モデルラットを想定している。これらは各種腎組織変性の代表的な病態モデルであるため、病態進行の評価を適切に行える。上記で同定された接着関連分子について、正常腎と病態腎との三者間シナプスの形態的変移との関連を検討する。また、必要であれば、中和抗体や各種薬剤による阻害実験をin vitroおよびin vivo系を用いて実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本学病態モデルセンターにおける遺伝子改変動物の導入時期が遅れ、飼育費用の一部が使用されなかったため、次年度持ち越しが発生した。持ち越し額については、次年度に遺伝子改変動物の飼育費用として使用を予定している。
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