研究課題/領域番号 |
21K06416
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研究機関 | 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター |
研究代表者 |
有村 奈利子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 病態生化学研究部, リサーチフェロー (20420375)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小脳 / シナプス形成 / GLAST / Dscam |
研究実績の概要 |
グルタミン酸は、哺乳類の中枢神経系の主要な興奮性神経伝達物質であり、シナプス間隙へ放出され、急速な神経活動の伝達を仲介した後、グルタミン酸トランスポーターによって速やかに細胞内に回収される。近年主要なグルタミン酸トランスポーターの一つであるGLAST(slc1a3)の遺伝子変異が、統合失調症や強迫性障害などの様々な神経・精神疾患に関与することが明らかにされてきた。しかし、シナプスを被覆するグリア細胞膜上でGLASTが、どのような機構でシナプス間隙に局在化して機能するかについては不明であった。我々はこれまで、DSCAMの発生期の神経細胞における機能を解析してきた。Dscamの機能欠損マウスの小脳を解析し、登上線維のシナプス形成が障害されていることを見出した。そしてこのDSCAMの機能低下がGLASTの局在異常を引き起こしていることを明らかにした。そこで、本研究では、このDSCAM-GLASTの相互作用がどのように小脳シナプス形成と運動機能を制御するか明らかにする。本年度は、GLASTの活性化剤リルゾールを投与し、シナプスにわずかに残っているGLASTを活性化することで、登上線維シナプス形成が回復するか検証した。その結果、シナプス数の回復の傾向が見られた。また、Dscam del17マウスを用いたCTZ投与によりEPSCの初期の増大が見られることが明らかとなった。本研究は、予定通り順調に進んでいると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画に沿って研究成果が上がっている。本研究では、このDSCAM-GLASTの相互作用がどのように小脳シナプス形成と運動機能を制御するか明らかを検証することを目的としている。本年度は、GLASTの活性化剤リルゾールを投与し、シナプスにわずかに残っているGLASTを活性化することで、登上線維シナプス形成が回復するか検証した。その結果、シナプス数の回復の傾向が見られた。また、Dscam del17マウスを用いたCTZ投与によりEPSCの初期の増大が見られることが明らかとなった。本研究は、予定通り順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で既にDscam mRNAがプルキンエ細胞で発現していることや、内在性DSCAMタンパク質が生化学的に分画したシナプス画分に濃縮することを見出している。しかし、現有の抗DSCAM抗体(計8種類)を用いた小脳における免疫組織染色では、全てバックグラウンドが高く、特異的な染色像が得られていない。そこで、内在性のDscamにtagを挿入したノックイン(KI)マウスを、i-GONAD(経卵管ゲノム編集)法で作出し、tag抗体でDSCAMーtagの局在を検証する。このtagで良好な結果が得られない場合、他のtagのKIマウスを作出し、内在性DSCAMタンパク質のシナプス局在を検証する。また、胎生期12.5日目のプルキンエ細胞にDSCAM-GFP遺伝子を過剰発現させ、成体マウスのバーグマングリアのGLASTの局在に変化を与えるか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究期間の研究成果としては、本研究所にて飼育、繁殖したマウスの薬剤投与実験や共同実験等の他所での研究が主であったため、これまでに準備した研究機材や施設、マウスの使用が主であったため本研究における研究経費が予想より少なくなった。また、本年度実施予定であった内在性DSCAMのタグノックインマウスの作成については、来年度の自身の所属先移動のため、移動後の動物移転について不明点が多く、研究計画を前後する事になったことが、本年度の使用額に変更が生じた理由である。
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