研究課題/領域番号 |
21K06424
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
齋藤 康彦 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (70290913)
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研究分担者 |
杉村 岳俊 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (60812526)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | セロトニン / カハール間質核 / 舌下神経前位核 / 視線制御 / パッチクランプ法 / 脳スライス |
研究実績の概要 |
脳幹の舌下神経前位核(PHN)とカハール間質核(INC)はそれぞれ水平性、垂直性の視線保持に関与しており、眼球速度信号を位置信号へ変換する神経積分器と呼ばれている。PHNやINCへはセロトニン(5-HT)などのモノアミン作動性投射がみられるが、それらが神経積分器の機能に対しどのように作用するのかについては知見が乏しい。そこで本研究では、モノアミンによる神経積分器の修飾機構を明らかにすることを目的とする。本年度はどのタイプのニューロンに5-HTがどのように作用するのかを明らかにするため、スライスパッチクランプ法を用いて、PHNやINCのニューロン間で5-HT受容体を介した電流応答の違いを調べた。トランスジェニックラット(VGAT-VenusラットとChAT-tdTomatoラット)を用いて蛍光顕微鏡下でGABA/グリシン作動性、コリン作動性、グルタミン作動性ニューロンを同定し、それらのニューロンへ5-HTを局所投与したところ、PHNとINCともに、(1)速い内向き電流、(2)遅い内向き電流、(3)遅い外向き電流の3種類のいずれかの電流応答が観察された。これらの電流応答とニューロンの種類との関係については、PHNではGABA/グリシン作動性は他のニューロンに比べ速い内向き電流の割合が高く、グルタミン酸作動性は遅い電流応答を示す割合が高かった。一方、INCではGABA/グリシン作動性は速い内向き電流の割合は低く、遅い外向き電流の割合が高かった。以上の結果から、5-HTに対する電流応答は異なる神経伝達物質をもつニューロン間で異なっており、さらに、視線制御におけるセロトニンの神経修飾は水平性と垂直性で異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に記載した初めの2年間で遂行する予定の「電流応答タイプとニューロンタイプとの関係」については、本年度にトランスジェニックラットを用いてGABA/グリシン作動性、コリン作動性、グルタミン作動性ニューロンを同定し、5-HTに対する電流応答の違いを調べ、さらに、発火パターンの違うニューロン間で5-HTに対する電流応答の違いについても調べた。昨年度に実施した電流応答を示す5-HT受容体を薬理学的に解析した結果を合わせると、5-HT に関しては2年間の研究計画は順調に進展され、今年の2月にはこの成果をまとめた論文が出版された。一方で、ノルアドレナリンに対する効果については未だ十分なデータが得られていない。以上のことから、本研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで96個のPHNニューロンと27個のINCニューロンからノルアドレナリンに対する電流応答を調べたが、応答を示すニューロンがPHNとINCともに少ないこと(PHNで36個、INCで5個)が判明した。今後は、データを増やす(特にINCニューロンからの記録を増やす)ことで、どのタイプのニューロンにおいて電流応答がみられるかを明確にするとともに、電流応答を生じさせているノルアドレナリン受容体のサブタイプを薬理学的に同定する。さらに、興奮性応答に対するセロトニンやノルアドレナリンの効果についても調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はセロトニンに関する研究を進捗させて論文出版を目指した。よって、本年度に購入した試薬はセロトニン関連のもので、ノルアドレナリンに関する試薬はほとんど購入しなかったことが、次年度使用額が生じた理由になる。次年度使用額を用いて、ノルアドレナリンの実験に必要な試薬を新たに購入する計画である。
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