研究課題
前年度までに、忌避刺激(マウス足裏への電気刺激)により線条体/側坐核領域にて、NMDA受容体/CaMKⅡ/RhoA/Rho-kinase経路が活性化すること、側坐核のドーパミンD2受容体を発現する中型有棘神経細胞(D2R-MSN)にてRho-kinaseを欠損させると忌避学習・記憶が低下することを見出した。忌避学習・記憶の形成には、側坐核のD2R-MSNのシナプスの長期増強(long-term potentiation;LTP)が関与することが考えられるため、本年度は、Rho-kinaseが側坐核のD2R-MSNのLTPに関与するかどうかを電気生理学的に解析した。急性脳スライスを作製し、ホールセルパッチクランプ法によって側坐核D2R-MSNの興奮性シナプス後電位を記録した。スパイクタイミング依存性シナプス可塑性(spike-timing-dependent plasticity;STDP)プロトコールによって可塑性を誘導したところ、D2R-MSNのシナプスでLTPが誘導された。一方、Rho-kinase阻害剤で(Y-27632)でスライスを処理すると、後期段階(STDP誘導後25-30分)でのLTPが有意に減弱した。LTPの初期段階(STDP誘導後0-5分)に対しては有意な差は認められなかった。したがって、LTPの維持にRho-kinaseが関与する可能性が示唆された。次に、Rho-kinaseがスパイン形態を制御するかどうかを検証するために、Rho-kinaseのコンディショナルノックアウトマウスを用いて、スパインの形態に対するRho-kinase欠損の影響を検討した。側坐核のD2R-MSNにて、Rock1とRock2の両方を欠損させると、スパイン密度が減少することが明らかになり、Rho-kinaseが樹状突起スパインの形態可塑性を制御していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は当初予定していた以下の2つの項目について解析を行った。1.シナプス可塑性の電気生理学的解析Rho-kinaseが側坐核のD2R-MSNのLTPに関与しているかどうかを検討するために、急性脳スライスを作製し、ホールセルパッチクランプ法によって側坐核D2R-MSNの興奮性シナプス後電位を記録した。スパイクタイミング依存性シナプス可塑性(STDP)プロトコールによって可塑性を誘導したところ、D2R-MSNのシナプスでLTPが誘導された。一方、Rho-kinase阻害剤で(Y-27632)でスライスを処理すると、後期段階(STDP誘導後25-30分)でのLTPが有意に減弱した。LTPの初期段階(STDP誘導後0-5分)に対しては有意な差は認められなかった。したがって、LTPの維持にRho-kinaseが関与する可能性が示唆された。2. スパイン形態可塑性の解析Rho-kinaseがスパイン形態を制御するかどうかを検証するために、Rho-kinaseのコンディショナルノックアウトマウスを用いて、スパインの形態に対するRho-kinase欠損の影響を検討した。側坐核のD2R-MSNにて、Rock1とRock2の両方を欠損させると、スパイン密度が減少することが明らかになり、Rho-kinaseが樹状突起スパインの形態可塑性を制御していることが示唆された。以上のことより、本年度研究開始時に立てた実施計画と目標はほぼ達成出来たと考える。
2024年度は、以下の2つの項目について、解析を行う予定である。1.忌避刺激によるリン酸化シグナルの免疫組織学的解析2023年度までに生化学的解析にて、忌避刺激後に線条体/側坐核領域にて、ARHGEF2(CaMKⅡ基質)やMYPYT1(Rho-Kinase基質)のリン酸化が亢進することを明らかにした。2024年度はD2R-MSN特異的にYFPを発現するトランスジェニックマウスを用い、これらのリン酸化がD2R-MSN特異的かどうかを免疫組織学的解析により検討する。2.スパインの形態可塑性の解析Rho-kinaseのドミナントネガティブ変異体やSHANK3のリン酸化部位変異体を発現するAAVを側坐核のD2R-MSNに発現させ、樹状突起スパインの形態解析を行う。また、さらに、LTPを誘導しスパイン増大を引き起こした際のRho-kinaseのドミナントネガティブ変異体やSHANK3のリン酸化部位変異体の効果を検討する。
一部の試薬・消耗品に関して、当初計画より経費節約が出来たため、次年度使用額が生じた。現在投稿中の論文の改定に伴う消耗品費に充てる。
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Frontiers in Molecular Neuroscience
巻: 17 ページ: 1379089
10.3389/fnmol.2024.1379089
https://www.fujita-hu.ac.jp/icbs/department/dept02.html
http://www.fujita-hu.ac.jp/ICMS/research_category/res06-22054/index.html
https://kanphos.neuroinf.jp