研究課題/領域番号 |
21K06433
|
研究機関 | 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 |
研究代表者 |
深田 斉秀 愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 細胞病態研究部, 主任研究員 (80414019)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | うつ病 / アンヘドニア / 治療 / セロトニン |
研究実績の概要 |
うつ病では、ストレス等によって神経系に可塑的な変化が生じ、憂鬱な気分や快感消失などの精神症状、睡眠障害や倦怠感などの身体症状が現れると考えられているが、その発症メカニズムは不明である。また治療には主に、セロトニン(5-HT)、ノルアドレナリン(NA)神経伝達 を促進する薬剤(抗うつ薬)が用いられるが、即効性がないこと、根治的な治療ではないこと、 効果のない治療抵抗性うつ病患者が多いことから、これに替わる新しい治療薬が必要とされている。本研究の目的は、うつ病に対する新しい治療戦略の創出である。具体的には、5-HT神経細胞のストレス応答を薬剤(HDAC6阻害剤)によって選択的に抑制し、これによって、うつ症状の形成を阻害できるか、すでに形成されたうつ症状を回復きるか明らかにする。 本年度は、コルチコステロン慢性投与によって作出したうつ病モデルマウスに対し、HDAC6阻害剤が即効性抗うつ作用を示すことを見出した。抗うつ作用の検証には、うつ病の主要な症状の一つであるアンヘドニアを用いた。うつ病モデルマウスが示すアンヘドニアは、HDAC6阻害剤投与翌日には、阻害剤未投与群と比較して、有意に解消されており、さらにこの効果は投与1週間後にはより顕著となり、健常マウスと同程度となった。つまり、HDAC6阻害剤の単回投与で、アンヘドニアが解消されることが分かった。その一方で、HDAC6阻害剤をマウスに事前投与した場合に、コルチコステロン慢性投与によるうつ症状の形成を抑制できるか検討したところ、若干の効果は認められたものの、有意な差はなかった。これらの結果は、セロトニン神経系のストレス応答抑制により、うつ病の主要な症状の一つであるアンヘドニアを治療できることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、予定通り①コルチコステロン慢性投与によるうつ病モデルマウスの作出、②うつ病の主要な症状であるアンヘドニアを評価する試験系(雌選択性試験)の確立、③HDAC6阻害剤の即効性抗うつ作用の検討、④HDAC6阻害剤のうつ症状形成予防効果の検討を行った。当研究所の動物飼育施設で、飲水にコルチコステロンを含ませて慢性投与を行うために、飼育方法(給水タイミング)の検討を行い、条件を決定した。雌選択性試験を当施設の行動実験室で実施するために、実験装置をセットアップし、予備実験を繰り返して、装置の最適化、手順の習熟を行い、安定してマウスのアンヘドニアを評価できるようになった。コルチコステロン慢性投与により作出したうつ病モデルマウスに対し、HDAC6阻害剤が即効性抗うつ作用を示すことを、雌選択性試験により確認した。HDAC6阻害剤の事前投与による、うつ症状の形成阻害は、これまでのところ確認できていない。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の予想通り、慢性コルチコステロン投与によって作出したうつ病モデルマウスに対しては、HDAC6阻害剤が即効性の抗うつ作用を示すことが判明した。今後は、より自然なストレス負荷である、慢性社会的敗北ストレスにより作出した、うつ病モデルマウスを用いて、HDAC6阻害剤の効果(抗うつ効果、うつ症状形成予防効果)を検討する。その後、うつ症状の形成と寛解に伴って生じることが知られている脳の構造的変化、すなわち内側前頭前野(mPFC)領域のスパイン密度変化を指標にして、HDAC6阻害剤の効果を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
必要な経費が90万円に満たなかったため僅かな残額が生じた。次年度のマウス購入にかかる経費の一部として使用する。
|