研究課題/領域番号 |
21K06436
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 浩行 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任准教授 (90312280)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 睡眠 / 視覚 / 臨界期 / 脳発達 / GABA抑制系 / 可塑性 / NMDA受容体 |
研究実績の概要 |
赤ちゃんや子供にとって睡眠は脳と身体の健やかな成長に重要であると信じられている。発達期にはレム睡眠が豊富で、遅れてノンレム睡眠が成熟してくる。しかし幼弱かつ急速に成長する動物の睡眠を長期的に観測し操作することは容易でないため、発達時のレム睡眠とノンレム睡眠にどのような関係があるのか知られていない。申請者の研究チームはマウス発達過程と脳の臨界期を人工的に分離することに成功し、臨界期前と後の睡眠を大人のマウスで比較・解析することが可能となった。これを利用して本研究は睡眠発達にともなう分子・神経レベルでの変化、発達期レム睡眠がもたらすノンレム睡眠の成熟への影響を明らかにすることを目的とする。子供の睡眠がもたらす脳の成長の科学的基礎や、睡眠不全による発達障害への関与について本質的な理解につながると期待される。 従来この種の発達研究は小さく幼弱な動物を使用しなければならなかった。しかし脳のサイズをはじめ可塑性とは関連しない多くの過程までもが著しく変わる発達期で詳細な解析は困難だった。当研究室は大人の動物に皮質可塑性(眼優位性)を発現させる動物モデルを確立している。抑制性伝達物質GABA合成酵素GAD65欠損マウス(GAD65マウス)は通常の臨界期を示さない。しかしGABAA受容体機能を一時的に促進する薬物(ディアゼパム)投与で野生型同等の可塑性が復活させられる。これにより生理的に安定した大人の「臨界期」モデルマウスで詳細な脳活動の操作と分析が可能となった。 本年度はレム睡眠を制限した野生型・GAD65マウスの視覚皮質と海馬を採取し、NMDA受容体サブユニットなどシナプス可塑性に関与する分子群をウエスタンブロッティングにより定量した。レム睡眠量と特定分子の発現量との相関において野生型とGAD65マウスに有意な差を検出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
睡眠の機能を探る直接的かつ有力な方法が断眠であり、本年度はマウスレム睡眠・ノンレム睡眠のはく奪による皮質分子・遺伝子発現変化を調べた。断眠直後ウエスタンブロッティング法により視覚皮質のタンパク発現を定量した。特にシナプス可塑性に深く関与することが知られるNMDA受容体を構成するGluN1, GluN2A, GluN2Bサブユニットに注目し、各種分子発現量を明期6時間に含まれる覚醒、レム睡眠、ノンレム睡眠との相関を求めた結果、各睡眠ステージの各分子発現への寄与を推定した。レム睡眠量と特定分子の発現量との相関において野生型とGAD65マウスに有意な差を検出した。発達期マウスのレム睡眠との関係が示唆される。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の研究進捗をふまえ当初の研究計画に従って遂行する。 とくに野生型成熟マウスおよび発達期モデルGAD65マウスの視覚野を対象として睡眠・覚醒時の神経活動の動態を比較する。睡眠中にあっても視覚応答を検出できることから誘発応答についても分析する予定である。またGAD65マウスに人為的に視覚野可塑性を誘導した場合に神経活動にどのような変化がもたらされるかを知ることで、発達に伴う脳回路特性の変化を推定したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より研究は順調に推移したため、見込まれた研究経費より使用額は小さくなった。今年度得た知見の再確認を含め、脳発達や脳可塑性について生理学的手法を用いたより多角的な分析を加えることで本研究をより発展的に展開する予定である。
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