研究課題/領域番号 |
21K06439
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
川口 将史 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (30513056)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 魚類 / 間脳 / 視床下部 / 後結節 |
研究実績の概要 |
ハゼ目ヨシノボリの前脳後部における転写因子および神経伝達関連因子の発現分布パターンを解析し、哺乳類や両生類で知られている脊椎動物の共通パターンと比較した。その結果、ゼブラフィッシュにおいて後結節脳室周囲部(TPp)と呼ばれている脳領域は、腹側視床と視床下部にまたがる領域であることが以下のように明らかになった。TPpの最吻側領域とされる領域はプロソメアの翼板と基板の境界を規定するshhの発現より背吻側にあり、arx陽性細胞とpax6陽性細胞を含むことから、プロソメア3の翼板にあたる腹側視床の一部であることがわかった。この領域にはチロシン水酸化酵素(TH)免疫陽性の中型細胞を含んでおり、哺乳類において不確帯と呼ばれる腹側視床内の領域に相当すると考えられた。一方、外側陥凹のレベルにおいて第三脳室の背側に位置し、TH免疫陽性の大型細胞群が分布するTPp大型細胞部は、otp陽性細胞を多く含んでいた。このotp陽性細胞集団はpax7陽性細胞を多く含むプロソメア3の基板領域の腹尾側に位置し、lef1陽性細胞とth2陽性細胞を多く含む室傍器官(PVO)の尾外側に位置していたことから、視床下部隆起核深層背側領域(RTuD)に相当することがわかった。また、lef1陽性細胞とth2陽性細胞の分布から、ヨシノボリのPVOもゼブラフィッシュと同じように外側陥凹の背内側に位置する中間核(IN)に連続し、外側陥凹の吻側を回って外側陥凹の腹側まで分布していることがわかった。以上のように、転写因子や神経伝達関連因子の分布パターンを確認することで、魚類の前脳後部の構造について他の脊椎動物との比較に基づいた領域の同定を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヨシノボリの間脳、視床下部の構造に関する理解が進んだため、これらのデータをまとめて2021年度内に論文として投稿することを目指した。しかし、研究代表者が富山大学から富山短期大学へ異動することが決まったため、移管に係る手続きや作業に多くの時間を割くことになった。このため、論文原稿の作成が滞ってしまい、目標を達成することができなかった。また、これまで蓄積した組織データを集約して脳構造の同定を行う作業に集中したため、行動解析の実験を進めることができなかった。以上の理由から、当初予定していた進捗からやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
富山短期大学で本研究課題を遂行するための実験環境を一刻も早く整える。また、ヨシノボリの間脳・視床下部の構造に関する論文原稿を完成させ、投稿へと進める。 ヨシノボリの脳の構造に関する情報が一定量得られたため、ヨシノボリの繁殖期における配偶者選択行動について解析を進める。そこでまず、求愛・威嚇それぞれに特異的に観察される行動要素を定量的に解析する。例えば事前の行動観察から、ヨシノボリの雄は同種の卵熟した雌に求愛する際、尾鰭を一定の間隔で振りながら巣に向かうらしいことが示唆されている。そこで、ヨシノボリの雄が侵入者(求愛対象の雌・威嚇対象の雌・雌と同じ大きさの物体)の傍から巣に向かう際に、0.25秒とに尾鰭の何回振っているのか経時的に測定する。この測定により、求愛対象の雌に対する場合とそれ以外の場合で優位な差が得られた場合、一定間隔で尾鰭を振りながら巣に向かう行動要素を求愛特異的な招待行動として定義する。このように求愛あるいは威嚇に特異的な行動要素をそれぞれ定義した上で、雄が30分間にとった一連の動作の中から各行動要素だけを抽出し、それぞれの行動要素を行った回数や時間を測定する。これらの行動要素のスコアを基に、求愛と威嚇いずれの行動を行っていたのか判定する。
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