研究課題/領域番号 |
21K06439
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研究機関 | 富山短期大学 |
研究代表者 |
川口 将史 富山短期大学, その他部局等, 准教授 (30513056)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 配偶者選択 / 求愛行動 / 行動生態学 |
研究実績の概要 |
営巣中のヨシノボリの雄に雌を提示した際、雌が雄に追従して巣に入った場合、雄は求愛様行動を示したとみなし、そのような行動が見られなかった場合、雄は威嚇様行動を示したとみなした。雄が雌の傍を離れた後、再び戻ってくるまでの時間を測定し、求愛様行動と威嚇様行動で時間の分布を比較した。その結果、求愛様行動では1.5秒以内に多く分布がみられるのに対し、威嚇様行動ではこの分布は有意に少なかった(カイ二乗検定)。雄が1.5 秒以内に雌の傍に戻ってきた回数を個体ごとに数え、雄が巣の外にいた時間で補正した結果、求愛様行動を示した雄(n=9)では平均1.043回/分、威嚇様行動(n=12)では平均0.078回/分であり、有意差がみられた(ウェルチ検定)。このことから、求愛中のヨシノボリの雄は雌の傍に執着する傾向があることが示唆された。 次に、求愛された雌と威嚇された雌に視覚的な差異があるか調査した。雄に提示した雌を側面から写真撮影し、Fijiで画像解析を行った。胸鰭の基部背側端と尾鰭の基部中心を結ぶ線上の各ピクセルの輝度値を測定し、波形で示した結果、ピクセル幅が110を超えるピークの数(明るさ指数)が求愛雌(n=6)で威嚇雌(n=7)より有意に多かった(カイ二乗検定)。求愛雌の明るさ指数は1000ピクセル当たり平均1.18、威嚇雌では平均0.74だったが、有意差はみられず(ウェルチ検定)、体色の明るさは求愛の十分条件ではないと考えられた。一方、ピクセル距離から膨らみ指数(背腹の最長距離/肛門の位置の背腹距離)を算出した結果、求愛雌(n=10)は平均1.48、威嚇雌(n=8)は平均1.22で、有意差がみられた(ウェルチ検定)。膨らみ指数の高い威嚇雌もいたが、明るさ指数が低かった。以上のことから、ヨシノボリの雄は雌の視覚的特徴を複合的に判断し、配偶者選択の一つの指標としている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度から、研究代表者が富山大学から富山短期大学へ異動し、新しく担当することになった講義や実習の準備に多くの時間を費やした。このため、2021年度までに得られたヨシノボリの間脳、視床下部の構造に関するデータを論文化する作業が遅れている。一方、富山短期大学 専攻科食物栄養専攻の学生を指導し、ヨシノボリの行動や写真画像を解析するためのシステムを始動させた。こちらの解析は、今後順調に進められる目処が立ちそうである。以上の状況を総合して、現在までの進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
ヨシノボリの間脳・視床下部の構造に関する論文原稿を完成させ、投稿へと進める。 2022年度中に富山短期大学で本研究課題を遂行するための実験環境が整ったため、ヨシノボリの行動や写真画像の解析を中心に研究を推進していく。2022年度の解析から、求愛中のヨシノボリの雄は雌の傍に執着する傾向があり、雌の側を離れても1.5秒以内に戻ってくる傾向が強いことがわかった。2022年度の予備実験から、雄が雌の傍を離れる際、雄は前面ガラス側より巣穴の側に向かう傾向があることが示唆されている。2023年度はこの傾向を統計学的に確認した上で、巣に向かう雄の行動が求愛様行動と威嚇様行動で異なるか調査する。特に、巣に向かう際の尾鰭を振るペースの違いに注目する。また、求愛される雌の視覚的特徴を明らかにする目的で、2022年度の画像解析では、体色と腹部の膨らみだけに注目した。しかし、こういった雌のコンディションを反映する視覚情報だけでなく、雌の体長との間に相関性があるかも調査する。雌集団を様々な体長の個体を含む二つのグループに分け、1つのグループでは繁殖期に摂餌量を増やさず、もう1つのグループでは増やす。各グループの雌を経時的に雄に提示し、求愛されるか威嚇されるかを判定した上で、写真撮影を行う。摂餌量を変えたグループ間で、繁殖期の間に一度でも求愛される雌の数に有意差があるか評価する。差があった場合、コンディションと関連した外部形態と体長のどちらが求愛されやすさと相関するのかを評価する。以上の解析から、求愛される雌の視覚的特徴を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度予算の大部分は使用完了したが、2,249円が次年度に持ち越しとなった。2023年度の水槽飼育用品の購入などに充てる予定である。
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