本研究の目的は、聴覚システムにおける大脳皮質-大脳基底核ループの役割を神経回路レベルで解明する事である。大脳基底核(線条体)は、広く大脳皮質から入力を受けている。聴覚野も線条体(尾側)に投射しているが、この線条体がどのような神経回路を構築しているかは明らかにされていなかった。 私達は、聴覚システムの大脳皮質-大脳基底核ループを明らかにするために、遺伝子改変マウスとアデノ随伴ウイルスを用いて、その全貌の解明を試みた。越シナプスなウイルスAAV1を用いた実験で、聴覚野→尾側線条体→尾側淡蒼球外節と連絡している事が分かった。さらに、GAD67Creマウスを用いた実験で、淡蒼球外節GABAニューロンが、複数の脳部位に投射している事が明らかになった。その中でも、聴覚システムの非毛帯系を支配していたことから、聴覚の情報処理というより、聴覚に付随する機能を果たしていると考えられた。 淡蒼球外節GABAニューロンから複数の領域に投射している事から、淡蒼球外節GABAニューロンがヘテロな集団で、各サブグループのターゲット領域が異なるのではないかという仮説に至った。仮説を実証するべく、神経化学マーカーを用いた実験と逆行性トレーサー実験から、大まかには3つのGABAニューロンのサブグループが分布している事が明らかになった。 以上より、聴覚システムの大脳皮質-大脳基底核ループは、これまでの大脳皮質-大脳基底核ループと大きく異なる事が分かった。これまでの大脳皮質-大脳基底核ループのモデルでは、淡蒼球内節ないしは黒質毛網部のGABAニューロンが大脳基底核の出力ニューロンとされていたが、聴覚系の大脳皮質-大脳基底核ループにおいては淡蒼球外節GABAニューロンが出力ニューロンであった。この発見は、聴覚システムにおける情報処理などの基礎的な神経科学への貢献、聴覚過敏・幻聴のような応用的な貢献が期待できる。
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