研究課題
本研究課題ではポンペ病の原因酵素である酸性α-glucosidase (GAA)の安定性を高める実用的なシャペロン化合物の創製を目標にしている。今年度は、親化合物として基質類似体である1-deoxynojirimycin(DNJ)を選定し、本化合物を超える高いGAA親和性をもつ誘導体化について検討を行った。従来までDNJの誘導体化には、N-アルキル化が広く用いられてきたが、これに代わる誘導体として新たにC-5位に分岐型アルキル鎖を有する5-C-alkyl-DNJ および 5-C-alkyl-L-ido-DNJ 誘導体を設計し、L-sorbose 由来の環状ニトロンを用いて効率的に合成した (Eur. J. Med. Chem., 224, 113716, 2021)。得られた誘導体のうち5-C-heptyl-DNJはGAAに対してKi値0.0047μMと非常に高い親和性を示し、DNJより13倍強力な親和性を示すことが明らかになった。酵素の熱安定性を評価できるサーマルシフトアッセイにおいても、10 μMの5-C-heptyl-DNJ添加により、タンパク質変性温度の中点(Tm値)は、リガンド非存在下の58.6℃から73.6℃まで上昇し、rhGAAの熱安定性を著しく改善することが明らかになった。さらに、5-C-heptyl-DNJは、M519V変異を持つPompe患者の線維芽細胞において用量依存的に、細胞内GAA活性を上昇させた (J. Med. Chem. 65, 2329-2341, 2022)。以上、今年度の成果として、DNJのC5位に分岐型アルキル基を導入する新たな誘導体化デザインを見いだす事に成功した。本誘導体化の確立により、ポンペ病のファーマコロジカル・シャペロン療法のための新しい分子戦略が得られ、より親和性の高い実用的なシャペロンが開発される可能性がある。
1: 当初の計画以上に進展している
今年度の研究成果として、DNJのC5位に分岐型アルキル基を導入する新たな誘導体化デザイン戦略を見いだすことに成功した。中でも5-C-heptyl-DNJは、現在、ポンペ病の臨床試験Phase IIに入っているDNJよりも13倍強力な親和性を示すことが明らかになった。GAAに対しDNJを超える親和性を持つ化合物の報告はこれが初めてとなる。本化合物は、酵素補充療法で使用されるヒト組み換え型GAA(rhGAA)に対してKi値0.0047μMと非常に高い親和性を示すことから、本化合物とrhGAAの併用投与は、rhGAAに強く結合することで酵素の安定性と成熟度を高め、その結果、酵素の輸送効率を飛躍的に高め、より低用量で酵素補充療法が実施可能になることが期待される。また、誘導体化・化合物合成の面でもC5位に分岐型アルキル基を導入する新たな誘導体化の手法は、ゴーシェ病やファブリー病など、他のリソソーム病に対する実用的なファーマコロジカル・シャペロン化合物の創出の面でも貢献できると確信している。今年度の成果は、Eur. J. Med. Chem., 224, 113716, 2021およびJ. Med. Chem. 65, 2329-2341, 2022に掲載され、当初の計画以上に進展していると言える。
今後の研究の推進方策として、C5位への分岐型アルキル基を導入が、DNJ以外のイミノ糖においても親和性の向上をもたらすのか検討を行っていきたい。特に5-C-alkyl-L-ido-DNJ 誘導体については、親化合物であるL-ido-DNJがGAAに対し、全く親和性を示さないことから、本化合物をモデルとしてC5位への分岐型アルキル基を導入が酵素活性に与える影響についてWetによる実測と、ヒトGAAの3次元座標データを用いたDryのコンピュータリガンドドッキングの両面から解析して行きたい。Dry実験に関しては、得られた複合体構造を初期構造として水溶液中の分子動力学シミュレーションを実行し精度の高いモデルを構築する予定である。
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