研究課題/領域番号 |
21K06451
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
加藤 敦 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (60303236)
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研究分担者 |
石井 達 大分大学, 医学部, 客員研究員 (00222935)
中込 泉 北里大学, 薬学部, 助教 (30237242)
名取 良浩 東北医科薬科大学, 薬学部, 講師 (50584455)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | リソソーム病 / グリコシダーゼ / イミノ糖 / シャペロン / フォールディング / ポンペ病 / シャペロン療法 / 酵素補充療法 |
研究実績の概要 |
昨年度の成果として、DNJのC5位に分岐型アルキル基を導入した5-C-heptyl-DNJがGAAに対してKi値0.0047μMと非常に高い親和性を示し、DNJより13倍強力な親和性を示すことを明らかにした。そこで今年度は、ピペリジン型イミノ糖のC5位に分岐した炭素鎖を導入することが普遍的にグルコシダーゼに対する親和性を向上させるかについて検討をおこなった。親化合物としてGAAに対して親和性を全く示さないL-ido-deoxynojirimycin(L-ido-DNJ)を選択し、C5位へのアルキル鎖の導入がGAA親和性に与える影響を精査した。その結果、5-C-methyl-L-ido-DNJはGAAに対してグルコース類似体のDNJに匹敵する非常に強い親和性を示し、Ki値 0.060 μM を示した。この優れたGAAへの親和性の飛躍的な向上は、メチル基とエチル基を導入した場合にのみ観察された。ドッキングシミュレーションの結果、5-C-alkyl-L-ido-DNJのアルキル鎖は、その長さに応じて異なる3つのポケットに収納され、それによって分子配向が変化していることがわかった。5-C-methyl-L-ido-DNJは、酵素の熱安定性を高めるとともに、M519V変異を持つポンペ患者線維芽細胞において、用量依存的に細胞内GAA活性を高め、また酵素のリソソームへの輸送を促進した。本成果は、治療薬への応用展開が難しいとされてきた希少糖、特にL型単糖を擬態したイミノ糖に対して、有効かつ新規な誘導体化法を提供するものである。更に、見いだされた5-C-methyl-L-ido-DNJは、グルコース類似体DNJとは異なるポーズでGAAに結合し、シャペロン活性を発揮することから、DNJによるシャペロン療法が無効な変異を有するポンペ病患者に対する新たな治療薬候補となる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題ではポンペ病の原因酵素である酸性α-glucosidase (GAA)の安定性を高める実用的なシャペロン化合物の創製を目標にしている。その指標としてPhase II段階にある1-deoxynojirimycin (DNJ)を陽性対照とし、GAAに対する親和性の強さと、幅広い変異に対応できる汎用性の2点を中心に研究を遂行している。 昨年度、DNJに対する新たな誘導体化手法としてC-5位に分岐型アルキル鎖を有する5-C-alkyl-DNJを開発し、DNJを超える高いGAA親和性をもつ5-C-heptyl-DNJの創製に成功した。そこで今年度は、幅広い変異に対応できる汎用性の観点から、GAAに対しDNJとは異なる相互作用により認識される高親和性化合物の創製に着手した。その結果、D-glucoseとの相同性が低く未修飾の状態ではGAAに対し親和性を示さないL-ido-deoxynojirimycin(L-ido-DNJ)が、5-C-メチル化を行うことによりDNJに匹敵する親和性(Ki値0.060μM)を獲得できることを見いだした。ドッキングシミュレーションの結果から、本化合物はDNJとは明らかに異なる配向でGAAと結合するとともにアルキル鎖の長さに応じて異なる3つのポケットに収納され、それによって分子配向が変化していることがわかった。アルキル鎖の長さを変えることにより、リガンドであるイミノ糖の配向を意図的に変化させるという新たなデザインの手法は、ゴーシェ病やファブリー病など、他のリソソーム病に対する実用的なファーマコロジカル・シャペロン化合物の創出の面でも貢献できると確信している。 この成果は、Org. Biomol. Chem. 20 (36) 7250-7260.に掲載されるとともに雑誌の表紙を飾るなど、当該分野で高く評価されている。当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果からピペイジン型イミノ糖のC5位にアルキル鎖を導入する事により、ピペリジン環上のOH基の配位によらずGAAに対する親和性を向上できる可能性が示唆された。しかし、導入するアルキル鎖の長さについては、グルコース型イミノ糖のDNJではheptyl基が最適であり、L-イドース型イミノ糖のL-ido-DNJではmethyl基が最適であるなど、擬態した糖の種類(ピペリジン環上のOH基の配位)によりアルキル鎖の最適化が必要である事が示唆された。また、今回、L-ido-DNJのC5位に導入したアルキル鎖は、その長さに応じて異なる3つのポケットに収納され、それによって糖部分であるL-ido-DNJの分子配向を変化させていることがわかった。したがって、今後、ピペリジン環上のOH基の配位が異なるDNJ異性体について網羅的にC5位にアルキル鎖を導入し、アルキル鎖の長さと収納されるポケットの部位、更にそれによる糖部分(イミノ糖)の配向の変化について精査行く予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入の残金として82円残った。82円に関しては次年度の物品費と合算して使用する予定である。
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