本研究は、有機化学を利用した分子連結デザインを組み込むことによって、「低分子抗体が標的上で強固な多価結合を示す分子に変換される」システムを構築することを目的とした。 2021年度は、TNFR2タンパク質と抗TNFR2抗体Fabを利用した実験系で、反応性リンカーの構造最適化を進めた。その結果として、銅フリークリックケミストリーを利用することで、抗原存在下のみで蛍光強度の上昇が観察された。さらに、抗体エピトープ依存性を分析したところ、当初の設計通り、エピトープによって反応の有無が分かれることが明らかになった。 2022年度は、主に分子連結デザインのリンカー構造依存性を検証した。その結果、PEG自由運動時の両末端間距離が反応速度に大きな影響を与えることを明らかとした。また、より高精度な情報を得るために、結晶構造既知の抗原・抗体の組み合わせに予備的な展開を進めたほか、利用している抗体の抗原複合体構造取得を目的にタンパク質構造最適化を実施した。これに加えて、三官能性リンカーの準備を開始した。 2023年度は、前年度までの成果を基に、分子連結デザインを抗原テンプレート反応、あるいはこれをbiepitopic antigen-templated chemical reaction (BATER)と命名し、コンセプト論文を発表した。構造生物学的知見についても論文を発表した。さらには、三官能性リンカーとして、抗原を発現する細胞表層上でも反応が生じることを確認した。一方で当初のモデルでは細胞殺傷性薬剤を修飾した分子の取得には成功したものの、その有効性が確認されなかった。そこで、評価のより容易なモデル抗原に対してBATERを適用するための基礎検討を実施し、より広範な標的抗原上でのBATERを生じさせるための基盤技術の構築に成功した。
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