研究課題/領域番号 |
21K06454
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤岡 弘道 大阪大学, 産業科学研究所, 特任教授 (10173410)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アセタール / 脱保護 / 触媒反応 / 塩中間体 / DFT計算 |
研究実績の概要 |
今回の申請研究により、アセタールを触媒量のTMSOTfとコリジンに、化学両論量のジメチルスルフィドまたはトリエチルホスフィンとTMSClを加えて反応し、飽和重曹水で後処理すると、好収率で脱保護が進行することを見出している。 昨年度は引き続き、アセタールの触媒的脱保護反応の一般化を図った。また触媒反応サイクルを説明するため、DFT計算を行った。この触媒サイクルでは、まずTMSOTfが塩基性の強いコリジンと錯体(TMSColl・OTf)を形成して、このものがアセタールと反応してコリジニウム塩(Coll・OTf)を与える。次いでより求核性の強いジメチルスルフィドまたはトリエチルホスフィンがColl・OTfのカチオン部であるコリジンと置き換わり、チオニウム塩(Thio・OTf)またはホスホニウム塩(Phos・OTf)となる。この時に遊離するコリジンがTMSClと反応して錯体(TMSColl・Cl)生成する。そしてTMSColl・ClとThio・OTfまたはPhos・OTfとの間でアニオン交換反応が起こり、塩のアニオン部がClとなったチオニウム塩(Thio・Cl)またはホスホニウム塩(Phos・Cl)を与える。その際に同時に、活性種TMSColl・OTfが生成し、再度アセタールと反応して上記反応サイクルを繰り返す。このようにして、全てのアセタールがThio・ClまたはPhos・Clへと変換された後、飽和重曹水で加水分解されてアルデヒドへと変換される、と考えている。今回、この一連の変換過程での塩中間体の安定性をDFT計算して検証した。その結果、トリエチルホスフィンを利用する反応系では、我々の仮説を良く説明できる結果を得た。ジメチルスルフィドを用いる系については、現在検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反応条件を詳細に検討し、複数の塩中間体(ピリジニウム塩、チオニウム塩またはホスホニウム塩)を経由して反応が進行することを明らかにした。反応は、これまでにないカチオン、アニオン交換プロセスを経て触媒的に進行すると考えられる。そこで塩中間体の安定性のDFT計算を行い、チオニウム塩を経る経路は現在検討中であるが、ホスホニウム塩を経る経路については良く説明できる結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1)本触媒的脱保護法ではコリジンより塩基性が弱く、求核性が強いMe2SまたはEt3Pを添加剤として加える必要が有るが、添加剤の匂いの問題がある。一方、DMFも同様に利用できることを見出しているので、その他の添加剤も検討し、より優れた触媒サイクルの確立を目指す。 2)申請者のアセタールの脱保護の大きな特徴は「ケタールの存在下にアセタールを脱保護できる」という世界で唯一の反応である点である。しかしながらその達成にはTMSOTfより高価なTESOTfを用いる必要が有った。そこで触媒的脱保護法ではTMSOTfを用いてケタールとアセタールを併せ持つ基質で検討する。 3)申請者の手法では、水酸基のアセタール型保護基であるTHP-エーテル,MOM-エーテル,MEM-エーテル,メチレンアセタールなども脱保護でき、かつその脱保護の順番が従来法とは逆になるという特徴がある。そこで本触媒的脱保護法を、これらの水酸基のアセタール型保護基に適用し、より実用的な手法として 確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で予定どうりに研究を遂行することが出来ず、実施状況に遅れが生じていた。しかしながら昨年度の令和5年5月8日から、コロナの扱いも5類相当となり、日常の研究生活が戻りつつある。そこで、今後の研究推進方策に従い、研究の加速を図りたい。
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