研究課題
近年,病原菌の環境適応,薬剤耐性などに関わる情報伝達経路(2成分伝達経路)を構成するヒスチジンキナーゼ(HK)の阻害剤の開発が国内外で進められている。その経路に含まれる一連のタンパク質,例えば,HK とペアをなすもう一つの成分であるレスポンスレギュレータ(RR)も新規抗生物質の標的となりうるが,HK とRRは化学的に不安定なヒスチジンやアスパラギン酸のリン酸化を介して情報伝達経路を行うため,質量分析による解析が適用できず,経路全体を俯瞰するプロテオームデータがない。本研究では「フォスタグ」を用いた不安定リン酸化タンパク質の解析技術を利用し,細菌のシグナル活性化と外部環境因子との関連を網羅的に解析する。そうして蓄積したデータから分子間相互作用や情報伝達機構のクロストークなどが明らかになり,阻害剤などの新規抗生物質の標的分子が浮かび上がるようになることを目的とする。昨年度は,腸管出血性大腸菌など強い病原性の株が知られる,大腸菌の2成分情報伝達経路 を再現した擬似的な大腸菌を作成することを目標とした。大腸菌には,遺伝子がタンデムに並び機能的なペアと考えられる HK とRRが 29 組あるので,それら計 58 遺伝子をクローニングした。検討のため,1ペアについて HKと RR を互いに異なる複製開始点を持つ2種類の発現プラスミドにそれぞれサブクローニングした。8種類の発現プラスミドを用いて,良好に発現する組み合わせを検討したところ,3組の組み合わせで,HK とRRの共発現が可能であった。今年度は,他のHK とRRについても同様に発現プラスミドにサブクローニングを行った。良好に発現する遺伝子と発現できない遺伝子があり,できるだけ多くの遺伝子が発現できるよう検討を続けている。また,病原性発現に関わるHKの発現に伴うトランスクリトーム変化を調べるRNAseqを計画している。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は,大腸菌の2成分情報伝達経路 を再現した擬似的な大腸菌を作成することを目標としたが,大腸菌の29組のHK とRR,計 58 遺伝子のクローニングが完了した。またそのうちの,1ペアについて HK と RR を互いに異なる複製開始点を持つ2種類の発現プラスミドにそれぞれサブクローニングした。8種類の発現プラスミドを用いて,良好に発現する組み合わせを検討したところ,3組の組み合わせで,HK とRRの共発現が可能であることがわかった。この結果をもとに他のペアのサブクローニングをすすめた。発現が難しい遺伝子については,発現プラスミドの再検討を行っている。また,病原性発現に関わるHKの発現に伴うトランスクリトーム変化を調べるRNAseqを計画している。
大腸菌において大腸菌の29組のHK とRR の共発現系を作成するためのサブクローニングをすすめる。また,そうして作成した2成分伝達経路の擬似的なシステムが機能するかどうかを評価する。評価方法は,HK と RR の情報伝達経路を再現した大腸菌に,薬剤,pH, 栄養状態,浸透圧,酸化還元,塩濃度など,それぞれのHK/RRの機能に応じた適切な環境変化を与えたときに HK と RR が活性化(リン酸化)されるかどうかをフォスタグ 電気泳動を用いて調べる。また,様々な環境刺激に対して,どのような経路が活性化するかプロファイリングしてデータを蓄積する。個々のデータは刺激と経路の活性化の関係についての体系的なプロファイリングのためのひとつの要素となり,情報伝達ネットワークが浮かび上がってくることが予想される。また,増殖に必須なHK,病原性発現に関わるHK,薬剤耐性を制御するHKなどの発現に伴うトランスクリトーム変化を調べるRNAseqを計画している。これにより,新しい抗菌薬の標的となるタンパク質を探索する予定である。
本年度は,新型コロナ感染症に関する外出制限などがあり学会等の旅費を使用しなかった。また,遺伝子操作に関する生化学試薬の購入は多かったが,その他の試薬購入が予定よりも少なかったことなどがあり,次年度使用額が生じた。来年度は遺伝子操作,キナーゼアッセイなどのスクリーニングを行うための生化学試薬の購入,また次世代シークエンサーに関わる試薬または,受託解析依頼が増える予定であるので,本年度の剰余額と合わせてそれらのために使用させていただきたい。また,次年度は国内学会への旅費等も使用させていただきたい。
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Inorg. Chem. Comm.
巻: 147 ページ: 110221
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J. Electrophoresis
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10.2198/electroph.66.71
http://phostag.hiroshima-u.ac.jp