研究課題
ヒストン中のメチル化リシンを脱メチル化する酵素lysine specific demethylase (LSD)のうち、LSD1は、各種がん細胞の増殖や浸潤能に関与しており創薬標的として期待されている。一方でLSD2の機能には、未知な点が多い。すでに本報告者は、独自にLSD1阻害剤cis-1およびLSD2阻害剤trans-2を見出しており、既知阻害剤と比較しても最強部類に属している。そこで、①LSD1阻害剤cis-1を医薬品リード化合物として進化させるとともに、②LSD2阻害剤trans-2の進化によりLSD2機能解明の基盤を構築することを目的として研究を展開している。①に関しては、化学構造中のPh基の置換基が活性の強弱に大きく影響することを見出していたが、今年度は当該部分をナフタレン環等の二環性誘導体に変換した化合物の合成と評価を検討した。その結果、1-naphthyl体が目標活性(IC50 < 10 nM)を超える強力なLSD1阻害活性を示すことを見出した。また、環上の置換基の効果や立体化学に関する構造活性相関も明らかにした。さらに強活性化合物/LSD1複合体のX線結晶構造解析にも成功した。②に関しては、trans-2の構造的特徴である酸性官能基Zに着目し、誘導体合成を展開した。その結果、Zとは異なる酸性官能基でも活性が保持されることを見出した。さらにLSD2阻害活性を示す化合物のがん細胞増殖阻害活性を評価した結果、比較的強い活性を示した。上述の研究成果の一部に関しては、複数の学会で発表するとともに論文としてまとめ、学術雑誌に受理・掲載された。
2: おおむね順調に進展している
LSD1阻害剤は今年度の目標に到達した。LSD2阻害剤は、活性値という観点では僅かに目標値に未達であるが、各種評価には充分に活用可能であることを確認したことから、LSD2機能解明の化学基盤は構築できたと考えられる。
LSD1阻害剤に関しては、当初計画通り研究を進める。すなわち、医薬品リード化合物としての適格性(薬効薬理・薬物動態・安全性)を評価する。またバックアップとして誘導体合成&評価を継続する。LSD2阻害剤に関しては、これまでに得られている化合物を活用し、LSD2機能解明に取り組む。並行して誘導体合成&評価を継続することで目標を達成する。両阻害剤においてX線結晶構造解析を実施し、LSD1/LSD2び対する結合様式を解明するとともに、新たな化合物設計(SBDD)に反映させる。
比較的少ない化合物合成により活性向上ならびに構造活性相関解明に成功したため、試薬購入が当初計画以下であった。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
ACS Med. Chem. Lett.
巻: 13 ページ: 1485-1492
10.1021/acsmedchemlett.2c00294
http://www.ns.kogakuin.ac.jp/~wwa1068/index.html