研究課題/領域番号 |
21K06464
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研究機関 | 大阪医科薬科大学 |
研究代表者 |
平野 智也 大阪医科薬科大学, 薬学部, 教授 (20396980)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / エピトランスクリプトーム / 蛍光 / 生体内有機化学反応 |
研究実績の概要 |
DNA、RNA上の核酸塩基、ヒストンタンパク質へのメチル化などの化学的な修飾反応は、遺伝子の一次配列に依存しない生理機能であるエピジェネティクス、エピトランスクリプトームの分子的な基盤である。これらを簡便かつ安価で、網羅的に解析することは、ポストゲノム時代の重要な研究課題となる。その一方で、化学的な安定性の低さなどから質量分析などの従来の手法では解析が困難となるケースもある。本研究ではこうした問題を解決した手法の開発を行う。具体的には、修飾核酸塩基、修飾アミノ酸と選択的に結合を形成する有機化学反応を見出し、反応前後で蛍光特性が変化する蛍光センサーを開発することを目指す。 核酸塩基に対する修飾反応としてはシトシンに対するメチル化が最も古くから研究されているが、DNA、RNA上のアデニンに対してもメチル化が起こり、様々な生理機能に関与していることが示唆されている。例えば、RNA上のN6位のメチル化は、体内時計に関わることなどが報告されている。一方、N1位に対するメチル化に関しては不明な点が多い。そこで本年度はこうした問題を解決した解析法を開発するために、生理的条件下でN1-メチルアデニンと選択的に結合を形成する有機化学反応を開発する研究を行った。 N1-メチルアデニンは、N1位のメチル化によりC2位の求電子性が向上している。そのため、アルカリ性水溶液中では、水酸化物イオンがC2位を攻撃し、N6-メチルアデノシンが生成するディムロス反応が起こることが報告されている。我々は本反応を参考に、求核性の官能基を持つ化合物群を用いた検討から、ベンジルアミン誘導体が結合を形成することを見出した。さらに、フェニル基を蛍光物質であるクマリンの誘導体としても本結合反応が起こることを見出し、N1-メチルアデニンの高感度かつリアルタイムな解析が可能か蛍光法へ展開可能であることも示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前項「研究実績の概要」に記したように、本年度はN1-メチルアデニンと選択的な結合を形成する反応として、ベンジルアミンの窒素原子が求電子性の高いC2位に攻撃し、一連の機構を経て、N6位にベンジル基が導入される反応を見出した。その一方で、本反応の収率はまだ低く、水溶液中での反応が極めて遅い。そのため、ベンジル基へ様々な置換基の導入、複素環への変換などを検討した。その結果、電子供与性の置換基にはいくらか反応性を増大させる効果があることが明らかとなった。また、蛍光物質クマリンの3位にアミノメチレン基を導入した誘導体群においては、7位の置換基に由来する化合物の安定性が、反応性に影響することを明らかにした。 さらに、蛍光物質クマリン誘導体においては結合反応前後での蛍光特性の解析を行った。その結果、反応前のアミノ基が脱プロトン化される弱塩基性pHの条件下において、反応前後で蛍光強度が大きく変化する誘導体を見出すことに成功した。一方で、水中での量子収率の低さなど改善すべきて点も多い。今後は、アミノメチレン基の置換位置の検討を含めた、さらなる最適化が必要であることも明らかとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
反応前後で蛍光強度が変化したクマリン誘導体においては、蛍光センサーへの展開を目指す。反応性の向上に関しては、アミノメチレン基を有するクマリン誘導体を核酸に導入した分子を開発する。本分子を用いて、二重鎖の形成に由来するN1-メチルアデニンとの近接効果による反応性の向上を目指す。核酸への導入と二重鎖の形成の利用は、N1-メチル化が起こっているアデニンの部位を特定する機能も付与できる。その結果、より詳細な生理機能解析も可能となる。さらに、生きた細胞、組織、個体でのリアルタイムな解析も可能とし、医薬品候補化合物のスクリーニングにも応用できると考えている。 一方、蛍光物質としてのクマリンは励起、蛍光波長が短いという問題がある。そのためアミノメチレン基を導入する蛍光物質をより長波長であるTokyo Greenや、Bodipyに変換した化合物の合成を行う。合成した化合物もクマリン誘導体と同じく、N1-メチルアデニンとの結合反応、反応前後の化合物の様々なpHでの蛍光特性の解析を進め、より有用な蛍光センサーの開発を目指す。
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