核酸塩基、ヒストンタンパク質への化学的な修飾反応は、遺伝子の一次配列に依存しない生理機能であるエピジェネティクス、エピトランスクリプトームの分子的な基盤である。これらを簡便かつ網羅的に解析することは、ポストゲノム時代の重要な研究課題となる。その一方で、化学的な安定性の低さなどから質量分析などの従来の手法では解析が困難となるケースもある。本研究ではこうした問題を解決した手法の開発を行う。具体的には、修飾核酸塩基、修飾アミノ酸と選択的に結合を形成する有機化学反応を見出し、反応前後で蛍光特性が変化する蛍光センサーを開発することを目指す。 核酸塩基に対する修飾反応としてはシトシンに対するメチル化が最も古くから研究されているが、DNA、RNA上のアデニンに対してもメチル化が起こり、様々な生理機能に関与していることが示唆されている。例えば、RNA上のN6位のメチル化は、体内時計に関わることなどが報告されているが、その一方でN1位に対するメチル化に関しては不明な点が多い。こうした問題を解決した解析法を開発するために我々は、生理的条件下でN1-メチルアデニンと選択的に結合を形成する有機化学反応として、N1位のメチル化によりC2位の求電子性が向上していることに着目し、ベンジルアミン誘導体が結合を形成する反応を見出していた。本研究では本反応を蛍光センサーへと展開するため、フェニル基をクマリンなどの蛍光物質へと変換した化合物群を合成した。すなわち、蛍光物質の様々な置換位置にアミノメチレン基を導入した化合物群である。それらの機能を解析した結果、分子内水素結合や、脱離反応などの蛍光センサーとしての機能を損なう特性を排除した有用な分子を得ることに成功した。本分子を核酸などに導入することにより、生体内環境においてDNAまたはRNA上の特定の部位のアデニンのN1-メチル化を検出しうる蛍光センサーとなる。
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