研究課題/領域番号 |
21K06472
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
王 超 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (90610436)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 光化学反応 / 有機ケイ素化学 / 励起状態 / 反応機構解析 / 計算化学 |
研究実績の概要 |
1) 可視光による Si-H 結合の直接変換反応の開発 本研究では、有機ケイ素化合物の分子特性を活かした反応設計を行い、光励起により Si-H 結合の直接切断による分子変換手法の開発に取り組み、可視光照射による触媒フリーヒドロシリル化反応手法を実現した。本反応では、種々の不飽和炭化水素分子とシランを可視光照射下反応させると、目的のヒドロシリル化体が得られることを見出した。本手法は、高い選択性・高い反応効率を有し、温和な条件下で様々な官能基を有する基質へケイ素官能基を導入することが可能である。「励起状態促進型」分子変換プロセスを目指した本研究で開発した新反応が契機となり、ケイ素の潜在能力を活かした新規分子変換手法や未知機能性材料の創出に繋がることが期待される。
2) 理論計算による天然物の生合成経路の解明 Chloroflexus aurantiacus から単離されたneoverrucosan-5beta-ol は、7個の不斉中心を有する四環性ジテルペノイドである。この生合成経路では、複数の水素移動および骨格転位を伴うカチオンの長距離移動による多段階連続反応の可能性は提案されたものの、中間体、遷移状態、選択性などを含む反応機構の詳細な解明にはまだほど遠い状況である。そこで、我々は、DFT 計算手法を用い、15段階にもおよぶ素反応の組み合わせから成る複雑な反応機構の全容解明に成功した。さらに本手法を拡張して、現在も引き続きいくつかの生合成経路の解明に挑んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021 年度は、電子励起状態の積極利用を基盤とする14 族元素化学新反応、新手法の創出を目指した研究に取り組んだ。その為に、昨年度は、可視光による Si-H 結合の直接変換反応を開発した。この結果の一部をまとめて、現在は国際誌への投稿論文を作成している。さらに、昨年度は計算化学手法を利用し、複雑な天然物分子の生合成反応経路の解明に成功した。本研究結果の一部は JACS Au 誌に掲載され、表紙として採用された。以上により、現在までの研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2022 年度の研究は、2021 年度に引き続き、励起状態促進型 14 族元素官能基の導入反応の開発を継続する予定で、14 族ラジカル種の発生法の開発と合成化学的利用を一層重視する。14 族ラジカル種は、14 族元素導入のための重要な活性種として、近年注目されている。しかし、超共役や共役などによる隣接基からの安定化も受けにくい 14 族元素ラジカル種は一般に不安定であり、炭素ラジカルの化学に大きく遅れをとってきた。今年度は、可視光などの外部刺激による電子励起の利活用を基盤とする14 族ラジカル種の新たな発生法及び反応化学の開発に取り組む。さらに、15、16 族元素の特性を活かした分子変換反応の開発についての研究も展開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021 年度前半までは主に計算化学を用い、天然物の生合成経路の理論解析を展開した。後半から、実験的な研究を行い、可視光による Si-H 結合の直接変換反応の開発に取り組んできた。そのために、昨年度の研究費の一部は予定通りに使用された。また、当研究室の別予算により本研究における費用(消耗品など)の一部が支払われたこともある。未使用金額(706,000円)は、2022 年度の物品費(新反応開発の為の実験器具、試薬や他の消耗品など)に繰越する。また、昨年度の研究成果の論文投稿料や学会発表として旅費も計上している。
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