研究課題/領域番号 |
21K06479
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
江上 寛通 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (50553848)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | フッ素 / 相間移動触媒 / 不斉反応 / C-H変換 |
研究実績の概要 |
数多くの医薬品や農薬にフッ素が含まれていることからも分かる通り、分子にフッ素を導入することは生命科学分野において重要な戦略である。特に生体内がキラルな環境にあることから、生物活性分子の合成には精密な立体制御が求められる。その観点から我々は独自のキラルなジカルボキシラート型相間移動触媒を開発し、これまでアルケン類の不斉フッ素化反応や電子豊富な芳香環の脱芳香環化型フッ素化反応を開発してきた。一方で、C-H結合を直接フッ素に変換することができれば原子効率やステップエコノミーの観点から有意義であると考えられるが、その不斉化の一般的な方法論は確立されていない。そこで本研究では、我々の相間移動触媒の化学と遷移金属触媒の化学を組み合わせ、キラルジカルボキシラート触媒を多機能化することで、この未解決課題に取り組むこととした。 本年度は研究計画に従い、モデル基質としてオルトアルキルベンズアミド誘導体を種々合成した。このものを基質とし、フッ素化剤にSelectfluorを用いてキラルジカルボン酸、パラジウム塩、塩基の組み合わせを種々検討したが、ごくわずかしかフッ素化された化合物が得られなかった。そこで配向基としてアミノキノリン部位をもつアルキルアミドを基質として用いたところ、望みのフッ素化反応が進行することを確認した。しかしながら、化学収率および立体選択性に関して改善の余地を大きく残す結果であった。そこで、キラルジカルボン酸のパラジウム錯体を別途調製し、フッ素化反応に用いたものの、その触媒活性が低いことが明らかとなった。現在キラルカルボン酸の構造と反応性の関係を調べるべく、キラルカルボン酸の種々の誘導体の合成を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である不斉C-Hフッ素化はいまだ達成されていないものの、当初の計画通り、我々が開発したキラルジカルボン酸を用いて、種々の条件検討を実施し、一定の知見を得ることができた。一方でその反応効率や不斉収率の観点から、いまだ改善すべき点が多くあることも明らかとなった。そこで「研究の推進方策」に従い、2年目以降はその解決策を探索する。
|
今後の研究の推進方策 |
キラルジカルボン酸の構造がフッ素化反応に及ぼす影響に関する知見を得るべく、各置換基やリンカーを変換した新規ジカルボン酸を合成する。カルボン酸のオルト位の置換基は不斉空間を構築するのに重要な役割をもつものと考えているが、パラジウム触媒のキラルカウンターイオンとして働くとき、反応点周辺の環境が混み入りすぎていることが反応性低下の一因を担っているものと考察している。そのため、オルト位に置換基をもたないものや、イソプロピル基やメチル基などの小さな置換基を導入した触媒を合成し、その触媒活性を検討する。また、カルボキシラート間の距離が現在の触媒ではSelectfluorには有効であるものの、パラジウムには不適であることも考えられる。そこでリンカーの長さも調整し、カルボキシラート間の距離がフッ素化に及ぼす影響についても検討する。これらのジカルボン酸を効率的に合成するためには新たな合成ルートの確立が必要であり、2年目はその検討から始める。 フッ素化の基質には1年目で導出した二座配位性のアルキルアミドを用いる。まずは十分に反応が進行する系へと適応することで、不斉C-Hフッ素化反応に必要なエッセンスを抽出していく。それに伴いキラルカルボン酸の構造をブラッシュアップすることで、C-Hフッ素化に至適なキラルカウンターイオンを導出する。一方で当初の狙いであったSelectfluorの相間移動触媒としての機能も同時に検証し、触媒の多機能性についても明らかとする。以上を通して、不斉C-Hフッ素化の一般性の高い触媒系の基盤構築を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は反応基質については新規に様々なものを合成したものの、触媒については我々が開発していたもので検討したため、その合成が効率的になってきており、予定よりも少ない金額で研究を遂行することができた。また、学会もほぼ全てがオンラインで行われたことから、旅費等も計上分を消化できなかった。 しかしながら、今後の研究推進の方策にも示したとおり、2年目では新たなキラルカルボン酸触媒を開発する必要があることが明らかとなった。新規触媒として、様々な置換基やリンカーをもつものを合成する予定であり、それぞれ異なる合成試薬が必要となることから、その予算が必要である。また、新た触媒が合成されれば、それに伴い各触媒での条件検討も行う必要があり、この点でも1年目よりも費用がかさむ予定である。以上のことから、「次年度使用額」に関しては2年目以降で本研究で適切に使用する計画である。
|