研究課題/領域番号 |
21K06482
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
花屋 賢悟 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 講師 (50637262)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ペプチド / タンパク質 / 化学修飾 / 銅イオン / アルドール反応 |
研究実績の概要 |
抗体―薬物複合体などのバイオ医薬品創薬やケミカルバイオロジーの基礎研究において、薬物や蛍光分子などの人工分子をタンパク質の特定の位置に選択的に結合する技術(化学修飾法)が欠かせない。化学修飾法に用いる有機反応は、水溶液中、温和な反応条件(4ー50℃、pH5ー9程度、など)下、進行することが求められる。2000年以降、化学修飾法の研究は進展し、システイン、チロシン、トリプトファン、メチオニンなどの特徴的な反応性を利用した付加反応、酸化還元反応などによる化学修飾が報告された。しかし、これらの手法は対象のタンパク質が上記アミノ酸を持たない場合には適用できない。このような背景のもと、ポリペプチド鎖中に必ず1箇所存在するN末端アミノ酸を活用した化学修飾法を検討した。N末端にイミン形成を介して一時的に結合した配向基を利用すれば、クロスカップリング反応でN末端近傍のアミノ酸を化学修飾できると考えた。 本年度は、市販の生理活性ペプチドに対し、種々の芳香族アルデヒドを一時的配向基として用いるカップリング反応を試みた。すると予期せぬことに、銅イオン存在下、2-ピリジンカルボキシアルデヒドを作用させると、N末端アミノ酸がアルドール反応し、選択的に化学修飾されることを見出した。この反応は種々の生理活性ペプチド、タンパク質に対しても同様に進行し、N末端アミノ酸を選択的に化学修飾することができた。当初目的としたカップリング反応では無いが、新たな形式の化学修飾法を開発することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初、初年度はジペプチドに対し、銅やニッケルとボロン酸を用いて炭素-ヘテロ原子結合形成するカップリング反応を検討する予定であった。実際には、ジペプチドの代わりに市販の生理活性ペプチドを用い、種々の金属イオン存在下、種々の芳香族アルデヒドとボロン酸を作用させた。すると、銅イオン存在下、2-ピリジンカルボキシアルデヒドを用いた場合に、ボロン酸の有無に関わらずペプチドが化学修飾された。本反応について精査したところ、N末端アミノ酸がアルドール反応し化学修飾されたことがわかった。この結果は、反応条件次第では、一時的配向基として添加した芳香族アルデヒド自身が計画と異なる反応に関与する可能性があることを示唆している。 上記のアルドール反応は当初計画したものではないが、前例がないユニークな反応であったためさらに研究を進めた。その結果、この反応は種々の生理活性ペプチド、タンパク質のN末端アミノ酸の化学修飾にも適用できることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
計画当初、一時的配向基、金属イオン、ボロン酸を用いる炭素-ヘテロ原子結合形成するカップリング反応により、ペプチド、タンパク質のペプチド結合を化学修飾する予定であった。しかし、2020年にRajらが、ペプチドに対し、アルデヒドとボロン酸を作用させると、Petasis反応が進行しN末端アミノ基上がアルキル化されることを報告した。今のところ、申請者の反応条件でPetasis反応によりアルキル化した生成物は得られていない。しかし、今後、ボロン酸の代わりにハロゲン化アリール等を用いたカップリング反応についても併せて検討する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、すでに所有していた合成用試薬、生理活性ペプチドを使用して研究を進めることができた。そのため、消耗品として計上していた試薬の購入を抑えることができ、実際の支出が当初の支出計画を大きく下回った。さらに、本年度は学会がオンラインで開催されたため、出張費の支出が当初の計画から大幅に減った。 次年度は、ペプチド、タンパク質のHPLC用分析カラムや脱塩カラムなど高額な消耗品を購入する予定である。旅費については、引き続き学会に積極的に参加する予定である。
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