アミド結合は医薬品に多く見られる構造ユニットであり、またペプチドの基本構成単位でもある。そのため、アミド結合の構造特性を理解することは、医薬品設計における基礎的な知見となる。また近年、フッ素化合物の脂溶性などの特性が医薬品設計で注目され、近年承認されている医薬品のうち20%以上がフッ素を含んでいる。一方で、アミド類縁化合物へのフッ素置換基導入法は限られ、さらに立体構造特性に関する知見は少ないのが現状である。そこで本研究では、アミド、アミド類縁化合物にフッ素原子を導入した化合物の合成法、反応開発とそれらの構造特性を明らかとすることを目指した。 最終年度である3年目は、高いフッ素脱離により合成が困難であったフルオロカーボンアミド化合物の合成法について新たなアプローチを試みた。設計として、フッ素脱離を防ぐ置換基をアミド窒素原子上に導入することでフッ素の脱離を抑え、目的のフルオロカーボン化合物を単離することができた。また、この設計法をもとにアミド化合物に最終段階でフッ素原子を導入する合成法開拓を行った。フルオロカーボンを導入したアミド化合物は一部不安定なものもあり、医薬化学の展開にむけて、これら化合物の安定化のための設計指針は重要な知見になる。次に、得られたフルオロカーボンの構造解析を行った。NMRによる溶液中での構造解析の結果、置換するフッ素置換基のフッ素原子の数の相違により、アミド結合のシス-トランスの比率が影響を受けることがわかった。これら構造特性の統合的理解をもとめ、計算化学からの検討を行った。その結果、フルオロカーボン部位の配向性や回転障壁などにフッ素の構造が影響を与えることが示唆された。また、フルオロカーボン特有の性質と考えられる昇華性、分子間相互作用、光反応性などを見出し、これらは今後の別の研究プロジェクトにつながる知見を得ることができた。
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