ニトロキシル型触媒は環境調和性に優れたアルコールの酸化法であるが、アルコール以外の基質に適用されることは少ない。本研究では、独自のニトロキシル型触媒を開発し、不活性なアルカンのC-H結合の酸化の達成を目指した。 研究開始までに、電子求引基であるエステル基を2つ持つ触媒1がエステル基を持たない触媒より高い酸化活性を持つことを明らかとしていたことを踏まえ、エステル基を4つ持つ新規触媒2および3を合成したが、1と比較すると反応性が低下した。他にも新規触媒を複数したが、1以上に活性の高い触媒を見出すには至らなかった。一方、1を触媒、ジクロロメタン/ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とすることで、これまで達成できていなかった非環状かつα位にヘテロ原子を持たないベンジル位のC-H結合の酸化が可能であることを明らかにできた。また、エーテルのC-H結合の酸化にも展開した。まず、1を用いたアルコールの保護体であるシリルエーテルのカルボニル化合物への酸化を達成した。本法は、ベンジル、アリル位のシリルエーテル選択的に酸化を引き起こすことができる。すなわち、複数のシリルエーテル存在下、ベンジル位およびアリル位のシリルエーテル選択的な変換反応を可能とするものであり、医薬品や天然化合物の合成に有用であると考えられる。また、1を触媒としたアルキルエーテルの酸化については、第一級のベンジルアルキルエーテルのみしか成功していなかったが、添加剤として酸を検討し、p-トルエンスルホン酸を添加することで、第二級のベンジルシリルエーテルも酸化が可能であることが分かった。
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