研究課題/領域番号 |
21K06488
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
橋爪 秀樹 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 主任研究員 (10311276)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | chloptosin / L-156,602 / 作用機序解析 / 相乗性 / 黄色ブドウ球菌 / MRSA |
研究実績の概要 |
本研究では、Embleya sp. 放線菌の培養液から我々の見出した新規化合物クロプトシン類と、同時に生産される L-156,602 化合物間で見られる黄色ブドウ球菌に対する相乗的抗菌活性の機構解明を目的としている。この両化合物群は強い抗菌活性を示すが、関連物質も含めてその抗菌活性に関する作用機序が明らかになっていなかったため、まずは両化合物の単剤での抗菌活性に関する作用機序を明らかにし、ついで併用時の相乗性の作用機構についても解析を行う計画である。 2021年度は、クロプトシンおよび L-156,602の単剤での高分子合成阻害様式を検討し、両化合物の主作用点についての絞り込みを行い、非特異的に全ての高分子合成を阻害したことから、細胞膜障害作用が示唆された。そこで膜電位依存性の蛍光試薬を用いて脱分極や膜機能異常について検討したところ、両化合物共に細胞膜に影響を与えることを明らかにした。次にこの2者による黄色ブドウ球菌に対する相乗効果について、種々濃度を振って経時的に生菌数を測定して殺菌曲線データを取得した。すなわちクロプトシンはMIC 付近では静菌的に作用し、MIC 以上では緩やかな殺菌性を示した。一方、L-156,602 は短時間で強い殺菌力を示すことが明らかとなった。さらに併用時には、両者の単剤の時とは異なる殺菌曲線が得られた。増殖に影響の見られた濃度条件を精査し、同条件での細菌の様子を電子顕微鏡ならびに蛍光顕微鏡観察し、黄色ブドウ球菌細胞にどのような影響が出ているかを検討した。また、単剤および併用時における遺伝子発現についても検討を進めている。このほか、両化合物の抗菌活性に対する金属イオンの影響についても検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではクロプトシンおよび L-156,602の単剤の作用機序解析結果を踏まえて、なぜこの2剤の組みわせが相乗的な抗菌活性を示すのかを明らかにすることを目的としている。まずは単剤での作用機序の解明の一助として RI ラベルされた前駆体の取り込みを指標に高分子合成阻害様式の検討をおこない、非特異的に全ての高分子合成を阻害したことから、細胞膜障害作用が示唆された。そこで膜電位依存性の蛍光試薬を用いて脱分極や膜機能異常について検討したところ、両化合物共に細胞膜に影響を与えることを明らかにした。また、併用を示す濃度域に関して、経時的に殺菌曲線を測定し、併用時の抗菌活性の特性が明らかになってきている。以上のように、目的達成に向けた基礎データが蓄積されてきていることから、現在、概ね順調に推移していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に実施した高分子合成阻害様式試験の結果、クロプトシンおよび L-156,602は非特異的に全ての高分子合成をMIC付近の濃度で阻害したことから、細胞膜などに致命的な障害を与えていることが示唆され、その結果に基づき、電子顕微鏡観察を行い、細胞形態への影響が認められた。 クロプトシンおよび L-156,602の単剤ならびに併用時における遺伝子発現解析に関しては現在条件検討中であり、条件が定まったのちに各種関連遺伝子群の発現について詳細に解析する。具体的には昨年度得られた単剤および併用時における殺菌曲線のデータをもとに濃度設定して解析を行う。 また、当初は使用を予定していなかった蛍光顕微鏡や電子顕微鏡観察からも有用な情報が得られているので、これらも駆使して、多面的に作用機序、相乗性の機構について明らかにしていきたい。こちらに関しても殺菌曲線のデータをもとに濃度設定して、処理時間を変更して細胞への影響を観察していく。 実験に使用するクロプトシンおよび L-156,602サンプルについては、すでに保有量の半分以上を使用してしまったため、今後培養並びに単離精製を行い、機序解析用ならびに今後予定している動物実験に向けてサンプル確保を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、コロナウイルス蔓延の影響もあり、短期間で完結できる実験操作を優勢して行った。具体的には細菌に対する薬剤の影響を蛍光顕微鏡および電子顕微鏡で観察する、あるいは Time kill kinetics の測定などである。そのため、被験化合物であるクロプトシン類および L-156,602 化合物の発酵生産、単離精製は次年度以降に行うことに変更した。それに伴い、精製時に使用を予定していたフラクションコレクターの購入を見送った。以上の理由により次年度繰越金が生じた。 2022年度は繰越額を遺伝子発現解析ならびに蛍光顕微鏡に使用する薬剤や被験化合物群を大量培養ならびに単離精製するために必要な樹脂や器具などの購入に使用したいと思っている。
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備考 |
所属機関 微生物化学研究所の HomePage URL https://www.bikaken.or.jp
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