研究課題/領域番号 |
21K06498
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
楯 直子 帝京大学, 薬学部, 教授 (00201955)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / アミロイドβペプチド / 異性化アミノ酸 / マルチリガンド受容体RAGE / 老化 / D-Asp |
研究実績の概要 |
加齢に伴いタンパク質の代謝効率が低下することにより、生体内のタンパク質を構成するアミノ酸のD-体への異性化が生じる。アルツハイマー病の病因タンパク質の1つであるアミロイドβ(Aβ)においても加齢に伴いアスパラギン酸(Asp)など構成アミノ酸のD-体への異性化が確認されている。 2021年度はまず、実際にAβ(1-42)において異性化が確認されている1位、7位および23位のAspがD-体に異性化したAβについて、物性の特性を精査する実験を実施した。本研究の実施前に既に異性化Aβにおいても線維化、凝集体形成が起こることは明らかにしており、2021年度はさらに線維、凝集体の構造安定性の計測、および電子顕微鏡による微細な形態観察等を実施し、野生型Aβ(全構成アミノ酸がL-体)に関する計測・観察結果と比較・解析した。 具体的には線維の構造安定性をタンパク質変性剤のグアニジン塩酸に対する耐性計測により検討し、野生型Aβと比較して、D-Aspを含有する異性化Aβは構造の安定度が低下していることを明らかにした。異性化AβではL-AspがD-Aspに異性化することにより、野生型Aβにおいて形成されていた規則構造αヘリックスが崩れてしまうため、構造安定度が低下したものと考えられた。 次に電子顕微鏡による凝集体の微細形態観察を行った。7位D-Asp含有異性化Aβ、7位, 23位D-Asp含有異性化Aβは、野生型Aβよりもはるかに凝集度が高いことが確かめられた。さらに高解像度で観察したところ、特に7位, 23位にD-Aspが共存する異性化Aβにおいては、凝集体中に野生型Aβ線維の10倍相当の太さとなる線維が見出された。 以上の通り、2021年度は異性化Aβの特性のうち、線維・凝集体の構造の特性および構造安定度、さらに線維化・凝集性の進行度について解析し、野生型Aβと異なる特性を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
加齢によりAβ中のAspのD-体への異性化が進む現象に基づき、2021年度は加齢に伴い生成するD-Aspを含有する異性化Aβに関して、野生型Aβとは異なる特性を解明する研究を計画した。 具体的には、①異性化Aβが形成する線維の安定度の計測および野生型Aβとの比較・解析、②異性化Aβが形成する凝集体の安定度の計測および野生型Aβとの比較・解析、③異性化Aβの線維、凝集体の構造特性の明確化および野生型Aβとの比較・解析、④異性化Aβの線維、凝集体の微細な形態観察による線維化・凝集体形成の進行度の観測および野生型Aβとの比較・解析を計画した。 研究計画に従い、分光分析法、および透過型電子顕微鏡等を用いた構造化学、生物物理学的実験を実施することにより、野生型Aβとは異なる異性化Aβの線維化および凝集体形成に関する特性を解明することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2021年度に引き続き、異性化Aβの特性解析を進める。具体的にはAβの脳内への進入に関わる血液脳関門に存在するマルチリガンド受容体RAGE(Receptor for AGE:終末糖化産物受容体)とAβとの結合能について、Aβ中の異性化Aspの存在が及ぼす影響に着目し、RAGEとの結合様式における異性化Aβと野生型Aβとの差違を明らかにし、Aβの脳内への進入にAβ異性化が及す影響を明らかにする。 次に血中に滞留することで起こるAβ異性化はAβの老化と評されることから、この生体内の系を模した実験系として、試験管内において溶液条件(温度、イオン強度、共存する溶質等)を変化させ、溶液条件に応じて生成するD-Aspを含有する異性化Aβを光学異性体分離キラルカラムを用いて分離・分析する実験に着手する。 種々の溶液条件に対応して生成される異性化Aβを分離した後、それらについて、線維化・凝集性、神経細胞毒性、RAGE結合能などの特性を解析し、野生型Aβの特性との比較から、溶液中に滞留することにより惹起されるAβの老化に伴う異性化によってAβに付与される機能特性の解明へと結び付けていく。
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