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2021 年度 実施状況報告書

長時間分子動力学計算に基づく、遺伝子変異に起因する薬剤応答性変化の高精度予測

研究課題

研究課題/領域番号 21K06510
研究機関京都大学

研究代表者

荒木 望嗣  京都大学, 医学研究科, 特定准教授 (10452492)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワード非小細胞肺がん / キナーゼ / 遺伝子変異 / 分子動力学シミュレーション / タンパク質-化合物結合親和性 / 統計解析 / 薬剤応答性
研究実績の概要

ゲノム医療の現場においては、患者固有の遺伝子変異が日々報告され続けているものの、その大半の臨床的意義は不明である。研究代表者はこれまでに、タンパク質変異体の分子動力学(MD)シミュレーションによって、遺伝子変異に起因する薬剤耐性化の分子メカニズムが推定できる可能性を示してきたが、変異アミノ酸が薬剤ポケットから離れている場合(遠距離変異)では、変異による薬剤への影響の現れ方が小さく、薬剤応答性の正確な定量が困難な状況にある。そこで本研究では、タンパク質変異体の長時間MDシミュレーションに基づいて、遺伝子変異に起因する薬剤応答性変化をコンピューター上で高精度に推定することを目的としている。
R3年度は、ALK/ RET/EGFRキナーゼ遺伝子を対象に、薬剤応答性が実験的に測定されている既知の耐性・非耐性変異を収集し、キナーゼ変異体-薬剤複合体のMDシミュレーションを実施した。ALK遺伝子については、crizotinib, lorlatinibを対象薬剤とし、野生型に対して1-13倍の50%阻害濃度(IC50)を示す8種類の遠距離変異を選定した。RET遺伝子については、vandetanibを対象薬剤とし、野生型に対して2-4倍のIC50値を示す5種類の遠距離変異を選定した。EGFR遺伝子については、gefitinib, erlotinibを対象薬剤とし、ポジティブコントロールとなるL858R変異体に対して1-15倍のIC50値を示す5種類の遠距離変異を選定した。次に、野生型キナーゼ-薬剤共結晶構造を鋳型として各変異体の複合体構造をモデリングし、各変異体に対して1μsの分子動力学シミュレーションを独立に3本実施した。
また、関連研究として、タンパク質-薬剤結合プロセスを効率的に推定する新たなシミュレーション手法を開発して論文発表に至った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

R3年度は、ALKタンパク質野生型・遠距離変異体-薬剤複合体18ペア(=9種類×2薬剤)、RETタンパク質野生型・遠距離変異体-薬剤複合体6ペア(=6種類×1薬剤)、EGFRタンパク質遠距離変異体-薬剤複合体12ペア(=6種類×2薬剤)の各々に対して分子動力学シミュレーション(1μs×3本)を実施した。更に、比較対象として、薬剤ポケットに近いアミノ酸の変異(近距離変異)も選抜して、キナーゼ変異体の分子動力学シミュレーションを実施した。具体的には、ALKタンパク質近距離変異体-薬剤複合体14ペア(=7種類×2薬剤)、RETタンパク質近距離変異体-薬剤複合体5ペア(=5種類×1薬剤)、EGFRタンパク質近距離変異体-薬剤複合体4ペア(=2種類×2薬剤)の各々に対して分子動力学シミュレーション(1μs×3本)を実施した。これらは比較的大規模な計算量であったが、、「富岳」コンピューター(「富岳」成果創出加速プログラム枠)を利用して並列実行することで、全てのシミュレーションが予定通り完了している。

今後の研究の推進方策

R4年度は、R3年度に取得した既知キナーゼ変異体-薬剤複合体の分子動力学データを情報学的に解析することで、耐性変異体特有の特徴量を抽出する。まず、野生型・変異体の長時間シミュレーションデータを統合し、キナーゼ-薬剤間の水素結合・van der Waals相互作用に加えて薬剤ポケット近傍のアミノ酸の配向や構造柔軟性といった微視的な構造ダイナミクス情報を網羅的に算出して、これらを説明変数とした多変量解析によって耐性・非耐性変異体を分類する。その際、寄与率の高い説明変数を耐性変異体特有の特徴量として抽出する。次に、各変異体に対して抽出した変異体特有の複合体構造を出発点とし、アンサンブル型分子動力学シミュレーション(MP-CAFEE法)による薬剤の結合自由エネルギー(ΔG)計算を実施して薬剤の結合親和性を推定し、薬剤応答性の実データ(文献値)を用いて検証することで、解析プロトコールのパラメータを最適化する。

次年度使用額が生じた理由

(理由)COVID-19の流行により、参加を予定していた学会が中止になったため。
(使用計画)MDシミュレーションデータの格納を目的として、R3年度に購入したストレージサーバに組み入れるハードディスクを購入するとともに、研究成果を国際会議・学術論文で発表するための必要経費に充てる。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 産業財産権 (1件)

  • [雑誌論文] Exploring ligand binding pathways on proteins using hypersound-accelerated molecular dynamics2021

    • 著者名/発表者名
      Araki Mitsugu、Matsumoto Shigeyuki、Bekker Gert-Jan、Isaka Yuta、Sagae Yukari、Kamiya Narutoshi、Okuno Yasushi
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 12 ページ: 1-10

    • DOI

      10.1038/s41467-021-23157-1

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] A multiscale molecular simulation approach to assess the effects of mutations on functional activity and drug sensitivity in kinases2022

    • 著者名/発表者名
      Mitsugu Araki and Yasushi Okuno
    • 学会等名
      Spring 2022 ACS National Meeting
    • 国際学会
  • [学会発表] プレシジョンメディスンを加速する創薬ビッグデータ統合システムの推進2022

    • 著者名/発表者名
      荒木望嗣, 奥野恭史
    • 学会等名
      富岳成果創出加速プログラム 研究交流会
  • [学会発表] スパコンを用いたタンパク質-医薬品結合親和性・結合解離パスウェイの高精度予測2022

    • 著者名/発表者名
      荒木望嗣
    • 学会等名
      第429回CBI学会研究講演会
  • [産業財産権] 長時間分子動力学シミュレーションよる変異型タンパク質にに対する治療薬探索法2021

    • 発明者名
      奥野恭史、荒木望嗣、片山量平
    • 権利者名
      奥野恭史、荒木望嗣、片山量平
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2021-066780

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公開日: 2022-12-28  

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