研究課題
ゲノム医療の現場においては、患者固有の遺伝子変異が日々報告され続けているものの、その大半の臨床的意義は不明である。研究代表者はこれまでに、タンパク質変異体の分子動力学(MD)シミュレーションによって、遺伝子変異に起因する薬剤耐性化の分子メカニズムが推定できる可能性を示してきたが、変異アミノ酸が薬剤ポケットから離れている場合(遠距離変異)では、変異による薬剤への影響の現れ方が小さく、薬剤応答性の正確な定量が困難な状況にある。そこで本研究では、タンパク質変異体の長時間MDシミュレーションに基づいて、遺伝子変異に起因する薬剤応答性変化をコンピューター上で高精度に推定することを目的としている。R5年度は、R4年度に開発した解析プロトコールをR3年度に取得した分子動力学データ(ALKタンパク質野生型・変異体-薬剤複合体32ペア(=16種類×2薬剤)、RETタンパク質野生型・変異体-薬剤複合体11ペア(=11種類×1薬剤)、EGFRタンパク質変異体-薬剤複合体16ペア(=8種類×2薬剤))に適用し、変異体特有の構造的特徴を抽出した。次に、各変異体に特徴的な複合体構造を出発点とし、アンサンブル型分子動力学シミュレーション(MP-CAFEE法)による薬剤の結合自由エネルギー(ΔG)計算を実施して薬剤の結合親和性を推定した。また、関連研究として、LTK, EGFR遺伝子変異に起因するタンパク質活性異常の分子メカニズムを推定し、論文発表に至った。
3: やや遅れている
上記で記載したように、R5年度は、分子動力学トラジェクトリから変異体に特徴的な構造的特徴を抽出するプロトコールをキナーゼ-薬剤複合体計59種類の分子動力学データ(ALKタンパク質野生型・変異体-薬剤複合体32ペア、RETタンパク質野生型・変異体-薬剤複合体11ペア、EGFRタンパク質変異体-薬剤複合体16ペア)に適用し、各キナーゼ-薬剤複合体に対して変異体特有の構造的特徴を抽出した。更に、各々の変異体の薬剤応答性を推定するために、各変異体に特徴的な複合体構造を出発点とし、アンサンブル型分子動力学シミュレーション(MP-CAFEE法)による薬剤の結合自由エネルギー(ΔG)計算を実施して薬剤の結合親和性を推定した。現在は、計算結果を薬剤応答性の実データを用いて検証することで、シミュレーション・解析プロトコールのパラメータの最適化を進めている。
R6年度は、R5年度に引き続き、薬剤応答性の実データを用いて検証することで、遺伝子変異に起因する薬剤応答性変化を推定するワークフローにおけるシミュレーション・解析パラメータを最適化する。更に、がんゲノム解析によって同定された臨床的意義が不明な変異を用いて、本ワークフローの計算精度を評価する。
当課題で開発を進めている計算ワークフローの精密化に想定以上の時間を要しているため、次年度使用額が生じることとなった。次年度は、本ワークフローを構成するプログラム一式及び一連のシミュレーションデータを格納するストレージの購入等に充てる予定である。
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