研究実績の概要 |
創薬モダリティの多様化が進む中、核酸医薬は難治性疾患の新たな治療法として現在大きな注目を集めている。中でも、疾患関連タンパク質の遺伝情報を含んだmRNAを標的とするアンチセンス核酸は最も研究開発が進んでいる。アンチセンス核酸がその効果を発揮するために、標的のmRNAに対する二重鎖結合能を高め、酵素分解に対する安定性を改善することが必要であるため、世界中で化学修飾を施した人工核酸が開発されてきた。その中でも、核酸の糖部に架橋構造とグアニジノ基を併せ持つGuNA(Guanidine-bridged nucleic acid)は、グアニジノ基の正電荷により相補鎖RNAおよびDNAに対する高い二重鎖結合能と酵素分解耐性を獲得している。これまでの研究でGuNAのグアニジノ基窒素原子上にメチル基(Me)、エチル基(Et)、イソプロピル基(iPr)、tert-ブチル基(tBu)をそれぞれ導入した一置換型GuNA誘導体(GuNA[R])では、置換基の嵩高さが増すに従いオリゴ核酸の二重鎖安定性と酵素耐性能が上昇することがわかっている。 そこで本年度は、GuNAのグアニジノ基窒素原子に置換基を2つもつ(GuNA[R,R])のうち、GuNA[Me,Me]とGuNA[Me,tBu]を導入したオリゴ核酸のX線結晶構造解析を行い、置換基の嵩高さと二重鎖結合能の相関を明らかした。その結果、GuNA[Me,tBu]のtert-ブチル基は二重らせん構造の副溝に配置されるとともに、tert-ブチル基に置換したグアニジノ基の窒素原子とチミン塩基の2-カルボニル基炭素原子が水素結合を形成していた。このX線結晶構造は、GuNA[Me,tBu]導入オリゴ核酸がGuNA[Me,Me]導入オリゴ核酸に比してTm値が大幅に上昇する原因であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GuNA[Me,Me]とGuNA[Me,tBu]を導入したオリゴ核酸のX線結晶構造を明らかにするため、DNA 10-mer 5’-d(GCGTATACGC)-3’と8mer 5’-d(G[T]GBrUACAC)-3’の配列に、GuNA[Me,Me]チミン、GuNA[Me,tBu]アデニン、GuNA[Me,tBu]メチルシトシンを導入した10種のオリゴ核酸の結晶化を行い、そのうち、10-mer 5’-d(GCGTA[T]ACGC)-3’:[T]= GuNA[Me,tBu]、8mer 5’-d(G[T]GBrUACAC)-3’: [T]= GuNA[Me,Me]と8mer 5’-d(G[T]GBrUACAC)-3’: [T]=GuNA[Me,tBu]の3種のX線結晶構造をそれぞれ2.01Å分解能(PDB:8HIS)、0.95Å分解能(PDB:8I50)、0.93Å分解能(PDB:8HU5)で決定し、Protein Data Bankにデータを登録した。現在、誌上発表の準備を進めている。
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