研究課題/領域番号 |
21K06513
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
西田 孝洋 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(薬学系), 教授 (20237704)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | コントロールドリリース / 癌化学療法 / DDS |
研究実績の概要 |
癌化学療法による全身及び非病巣への薬物分布に伴う重篤な副作用を克服するため、これまでに腫瘍部位へ直接貼付する抗癌剤ドキソルビシン(DOX)を搭載したシート製剤の開発に着手した。放出制御のため乳酸グリコール酸共重合体(PLGA)を基剤に使用し、腹腔側への薬物放出を抑制し副作用を軽減する目的で二層型の構造とした。今年度については、併用薬を搭載可能な添加剤を選定することを目的に、放出性向上のため添加剤ポリエチレングリコール(PEG)を併用したPEG-DOXシート製剤を作製し、放出性と担癌マウスでの抗腫瘍効果、体内分布を評価した。PLGA, DOX, PEGを混合したシート製剤とPLGAのみのカバー(PLGAシート製剤)を重ね合わせ二層型のPEG-DOXシート製剤を作製した。リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)の水面に静置し経時的にサンプリングし放出性を評価した。また皮下担癌マウスの腫瘍部位にPLGAシート製剤、DOXシート製剤、PEG-DOXシート製剤を21日間貼付し、腫瘍径と体重を測定した。貼付21日後に腫瘍、各臓器、血漿のDOX濃度を分光蛍光光度計により定量した。シート製剤からDOXが持続的に放出され、PEGの併用により放出速度が向上した。担癌マウスへ貼付21日後においてもDOXが腫瘍部位へ選択的に分布した。一方、他臓器や血漿のDOX濃度は低くなり、貼付部位以外への移行の著明な抑制が示された。PLGAシート製剤貼付群と比較してPEG-DOXシート製剤貼付群では、顕著に腫瘍増殖が抑制された。本製剤により全身循環への移行を抑制した局所的な抗腫瘍効果の発揮が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度研究計画の大きな目的である、抗癌薬併用を可能にする癌表面へ適用可能な二層型シート製剤の抗腫瘍効果の基礎的検証は予定通り達成できた。しかしながら、他の有望な製剤添加剤については、二層型シート製剤作製方法の確立に想定以上の時間を要したため、試験管レベルin vitroにおける二層型シート製剤からの抗癌薬の放出性評価に留まった。一方、二層型シート製剤評価のための標的臓器である肝臓の担癌モデル作製については、腫瘍細胞の播種条件などの最適化に困難があった。そこで、担癌モデル動物における二層型シート製剤の効果判定のためには、異所性であるが、皮下担癌モデルで明確に評価できた。また、担癌モデル動物において、組織透明化の手法を活用した抗癌薬の癌内分布の可視化も着実に準備を進めている。さらに、生理学的モデルを活用して薬物速度論的に解析できる数理モデルに基づき合理的な製剤設計を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
二層型シート製剤の添加剤や併用剤の封入については、製剤処方の最適化に時間を要すると考えられ、今後は、脂質ナノ粒子作製で構築した実験計画法などの応用を考慮していく。製剤作製のための添加剤の選定においては、搭載する抗癌薬や遺伝子との相互作用を、様々な観点から検証する必要があるため、in vitro透析膜からの放出実験などからの様々な予測を試みていく。このような系統的な取り組みを通じて、抗癌薬や遺伝子の同時デリバリー可能な二層型シート製剤の可能性を検証していく。抗癌薬封入二層型シート製剤の有意な抗腫瘍効果が得られたものの、効果の予測を試行錯誤しているため、生理学的モデルに効果予測モデルを結合したPBPK-PDモデルを新たに構築して、合理的な製剤設計を進める。一方、抗腫瘍効果や薬物動態の把握に関しては、当研究室で開発した透明化技術が成熟してきたので、抗癌薬の癌などへの体内分布、および治療効果・副作用の指標となる細胞死や酸化ストレスレベルを、組織透明化の手法を活用して可視化して、製剤設計のための有用な知見を得ていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初に予定した計画通り、マウス動物実験や二層型シート製剤の作製が出来たため、ほぼ予定額通りの研究費執行ができた。 (使用計画)若干余った予算については、抗癌薬などの定量用のガラス・プラスチック器具の購入を予定している。来年度については、二層型シート製剤作製のための抗癌薬(ドキソルビシン)、高分子添加剤(PLGA)などの薬品類の購入を予定している。また、二層型シート製剤の大部分の評価をin vivo系で行うこと、実験的担癌モデル動物(マウス)を作製することから、実験用動物の購入に多額の経費を見込んでいる。さらに、DDS、薬物動態に関する学会に参加し、製剤設計や動態評価に関する最新の研究成果の情報収集および成果発表のための旅費を見込んでいる。
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