研究実績の概要 |
シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)の原因遺伝子産物であるミエリンタンパク質ゼロ(MPZ)について、ナノディスクを用いてMPZの細胞外ドメイン(MPZ-ECD)の膜重合活性を評価する“ナノミエリン”システムの拡張と、CMT関連アミノ酸残基置換がMPZの機能に及ぼす影響について解析した。 ナノミエリンについては、これまで用いていた直径10 nmのMSP1D1ナノディスクに加えて、直径13 nmのMSP1E3D1ナノディスク、直径21 nmのMSP2N2ナノディスクを用いたナノミエリンを調製し、電子顕微鏡解析による膜間距離の測定精度を向上させた。CMT誘起型アミノ酸残基置換については、D32G, D46V, A47V, E68V, N87H置換を導入したMPZ-ECDをそれぞれ調製し、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)およびナノミエリンを用いてこれらのアミノ酸残基置換がMPZの多量体化能・膜重層化能に及ぼす影響を解析した。この結果、N87H変異に伴う多量体化能・膜重層化能の消失が観測され、SECおよびナノミエリン実験において観測されたMPZ-ECDの多量体化・膜重層化能の喪失がミエリン形成不全と関連していることが示唆された。D32G, E68Vについては多量体化能・膜重層化能は観測されたが、CDスペクトルの温度依存的変化の解析から、野生型と比較して熱安定性が低いことが示された。この結果は、D32G, E68V変異を有するCMT患者の発症年齢が高いことと関連する可能性が考えられる。一方、D46V, A47Vについては、多量体化能・膜重層化能・熱安定性が野生型と同等であった。これらのアミノ酸残基置換に伴い誘起されるCMTには、今回の実験条件では観測されなかったホモ相互作用、あるいは他の関連タンパク質とのヘテロ相互作用が関与している可能性が考えられる。
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