研究実績の概要 |
本研究では、遺伝性脱髄神経疾患である1型シャルコー・マリー・トゥース病(CMT1)の分子メカニズムの解明を目的として、CMT1を引き起こすMPZ遺伝子のミスセンス変異に伴うMPZタンパク質の一アミノ酸残基置換が、MPZの細胞外ドメイン(ECD)の膜接着能、および熱安定性に及ぼす影響について解析した。最終年度は、ECDの結晶中において観測されないが、溶液中において観測されるECD間相互作用(S相互作用)に着目し、この相互作用部位上におけるD80N変異が、ECD間相互作用に及ぼす影響についてNMRを用いた解析を行った。D80N変異型ECDと野生型ECDのNMRスペクトル比較、およびD80N変異型ECDの濃度依存的なNMRスペクトルの変化解析を行った結果、D80N変異に伴いS相互作用部位全体に構造変化が誘起されること、D80N変異に伴いS相互作用が約7倍増強されることを示唆するデータを得た。D80N変異に伴い、S相互作用部位を介した二量体と推定される多量体が増加し、膜結合活性を有する8量体が相対的に減少すると考えられる。このような多量体化状態の変化がミエリン形成不全およびCMT1に関与する可能性があると考えた。本研究では研究期間全体を通じて、計8個のCMT1関連アミノ酸残基置換型MPZ-ECDの機能構造解析を行い、CMT1関連アミノ酸残基置換の影響が、(1)多量体化・膜接着活性に対する異常、(2)Folding・安定性に対する異常の2タイプに分類されることを見出した。ECDの多量体化異常を治療するためには、ECD間相互作用部位を標的とした8量体形成促進薬、あるいは二量体形成阻害薬の創製が有効と考えられる。一方、Folding・安定性異常の治療薬をデザインするためには、今後Foldingメカニズムを解明する必要があると考えられる。本研究成果の一部は、以下の学術論文にまとめて報告した(Sakakura, Structure, 2023)。
|